キャラクター作成集中講座 3
ア「さて、『大事な情報ほど言葉で語るべからず』を説明しますよ~。鷹さん、ご協力願えますか?」
鷹「うむ」
メ「まってまって、なんでこの人なの?」
ア「無口だからだよ」
鷹「うむ」
ア「じゃあ最初に、言葉で語るべからずの意味を解説しちゃうね」
解説:言葉とはウソをつくためのツールである……とはまあ、俺の言なのですが、例えばですよ、ツンデレちゃんを考えて見ましょう。口では「あ、あんたのことなんか心配してないんだからねっ」と言いますが、これはもちろんウソです。
チラリと不安げにこちらを見る瞳や、まだなにか言いたげに震える唇や、そういった言葉とは裏腹な体の動きが彼女の不安を読者に伝えます。
ここがキュンツボなのは明らかでしょう?
つまり、言葉よりも行動こそが真実を伝えるのです。
ア「というわけでメグたん、この人が無口であるということの表現は、どう書けばいいと思う?」
メ「えっと……つまり、無口だと言うことを行動でしめせってことよね。三人称神目線で、他の人物との会話シーンを作るとかどうかしら」
ア「いいねえ、じゃあ鷹さん、そういう感じでスタンバってもらえますか?」
鷹「うむ」
“新入りの男は、新人として最大の謙遜と敬意をもってその男に挨拶した。
「あなたが『鷹』ですね。俺は今日からここで研修することになったマーチンです、どうかよろしくお願いします!」
親愛をこめて差し出されたその手を男はチラリと一瞥しただけで、返事はひどくそっけなくて短いものだった。
「うむ」“
ア「おおっ、いいね、いいねっ!」
メ「でしょ♡ メグが本気になればこんなもんよ」
マ「ちょっとまて、ノリでやっちまったが、なんで俺が新人役なんだよ!」
ア「あれ? 気に入らなかった?」
マ「あ、いや、別に配役が気に入らないっていうわけじゃねえよ。ただな、俺は無料の仕事はしねえ主義なの! この分の出演料はちゃんともらうからな!」
ア「……」
マ「な、なんだよ」
ア「メグちゃん、さっき『言葉はウソをつくツールである』と教えたよね、その理屈でいうと、彼のいまの本心はなんだと思う?」
メ「えっと、言葉はウソなんだから……配役が気に入った!」
ア「そうそう、その調子で、無料の仕事は?」
メ「大好きだ、喜んでやらせていただきますっていうことになるわね……ふむ、メグの脳細胞がピキピキぴっか~ん! つまり、彼はボランティア精神あふれる好青年だということね!」
ア「さすがメグたん、名推理~♡」
マ「『名推理~♡』じゃねえよ! 勝手に人の人格捻じ曲げてんな! おれは、無料とか、ロハって言葉がだいっ嫌いなのっ!」
ア「お気づきですか、皆さん?」
マ「な、なにを言ってるんだよ、そして、誰に向かって言ってるんだよ!」
解説:いまここで行われたのは『会話という行動』です。つまり、メグが言葉に反応する、マーチンが言葉に反応する、『反応』という行動の積み重ねがこの会話になるわけです。
例えばここでメグたんが「わ~、あなたってしみったれね~」と言い、マーチンが「そうさ~、俺はしみったれ~」と返しても会話は成立しますが、なんだかつたないと思いませんか? これは、『会話にキャラクターの性格がはいっていないから』です。
もちろん会話劇の機能はひとつではなく、軽妙な『会話』を見せる部分や、必要な情報を登場人物に説明させる『会話に見せかけた説明』など、状況に応じた会話の使い方が必要になりますが、どんな会話劇のときにも忘れてはいけない基本がこれ、『会話も行動のうちである』、なのです。
ア「たとえば鷹さんの『うむ』は、これ単品でつかえばキャラクターの性格をひとつも含まないただの相槌だ。でもこれを鷹さんが言うことによって、鷹さん自身の言葉となる。そして、どのタイミングで言うかによって、鷹さんの性格を表す小道具としても使える。これが『うむ』を単なる記号的な文字の羅列ではなく、相槌という『行動』として使うということなんだよ。ね、鷹さん?」
鷹「うむ」
マ「どうでもいいけど、暇つぶしはそのくらいにして、さっさと本筋に戻ってくれ。俺だってそんなに暇じゃない、タイム・イズ・マネーだよ」
ア「ああ、はいはい。じゃあ次回、面接の続きをしようかね」