(90)
試合はその後決めてに欠け、気がつくとあっという間に最終回になっていた。
「この回で逆転できないと、俺たちは全国大会には出場出来ない・・・」
明は焦りを感じていた。
ここで逆転できなければ、明北高校は全国大会、ひいては甲子園に行けない。
だから、ここで逆転しなくてはいけない。
点差は1点差。
「藤田、なんとしても塁に出るんだ!」
明北ベンチからバッターボックスの藤田に激が飛ぶ。
「いや、俺だって打ちたいよ・・・」
藤田がつぶやく。
「ストライク!」
審判が腕を上げる。
「・・・これはダメだ・・・」
岩崎は絶望したような仕草をした。
「ストライク、ツー!」
あっという間に追いこまれてしまった。
「藤田、とにかく打て!」
ベンチの激も適当になってきた気がする。
「ストライク!バッターアウト!」
藤田は三振になった。
「ダメか・・・」
井川がうなだれる。
「大村、絶対打て!」
明北ベンチが再び盛り上がる。
「ストライク!」
「何やってんだよ!」
人間は極限まで追いこまれると、自分でも何を言っているのか分からなくなるらしい。
明北ベンチも段々口が悪くなってきた。
「バッターアウト!」
大村も三振になった。
明は後ろを振り返ることが出来なくなった。
きっと色んな負の感情が入り交じったなんとも言えない雰囲気になっているに違いない。
それは背中越しにもよく伝わってきた。
沢田が打席に立つ。
「タイム!」
監督が打席に立つ。
「代打かな?」
藤田がつぶやく。
監督の方を見る。
ん?
なんか俺の方に歩いている気がする。
明は背筋がゾワッとした。
何やら嫌な予感がする。
明は生唾を飲む。
「明、代打いけるか?」
監督は明に言った。
嫌な予感が的中した。




