(80)
「あのさ、あそこ…」
立脇がグラウンドの外を指さした。
そこには明らかに明北高校ではないユニフォーム姿の生徒が立っていた。
「…すごいこっちを見てるね」
「…うん」
ユニフォーム姿の生徒は、こちらをチラチラ見ながらメモを取っている。
明らかにこっちを偵察しているようだった。
どうしよう。
こういう時って声かけた方がいいのかな。
明は迷っていた。
でも、相手は相手にバレないように来ているから声をかけるのもどうなんだろうか…。
「明らかにこれ、偵察されてるよね」
立脇が言った。
「うん、偵察されてるね」
明も言った。
「普通偵察ってさ、バレないようにやるもんじゃないの?めちゃくちゃバレバレなんだけど」
「…うん」
確かに偵察というには目立ち過ぎな感じはある。
「どうしよう…、声をかけた方がいいのかな?」
「そっとしておいた方がいいんじゃない?」
明と立脇が話していると、偵察係はこちらに気がついたのか、そそくさと道具をしまい始めた。
「あ、気がついたね」
「すごい慌ててるね」
偵察係は道具をしまうと、慌てた様子でその場を後にした。
「行っちゃった」
「すごい慌ててたね」
明と立脇も帰り支度を始めた。
一方、偵察係は秋葉高校に帰ってきていた。
この秋葉高校こそ、明達の次の対戦相手だ。
偵察係は野球部の部室に入っていった。
そこにはキャプテンの中原が座っていた。
「田村、ご苦労だったな」
中原は偵察係こと田村にねぎらいの言葉をかけた。
「途中で相手に気づかれましたが、なんとか情報を集めてきました」
田村は、バックからノートを取り出す。
そこには細かく色んなことが書き記されていた。
「よし、これでいい」
中原は田村からノートを受け取ると、視線をノートに落とした。
明と立脇は並んで帰っていた。
「…あのさ、美穂にはなんて告白したの?」
立脇がさらりと聞いた。
「え、そんなの聞いてどうすんの?」
明が慌てふためく。
「いいから教えろよ~」
「は、恥ずかしいよ…」
そんな会話を繰り返しながら2人はそれぞれの家路についた。




