(8)
一時間目は数学だった。明の一番苦手な教科だ。
黒板には先生が公式や図をたくさん書いている。明には到底理解しにくかった。
明は授業を聞くふりをしながら、甲子園に行く方法を考えた。
自分は打撃に優れている訳じゃない。多分そこそこ打てるレベルだろう。守備もそつなくこなしているものの、上手いといえるものではなかった。
まいったな。これでは、チームを引っ張るどころではない。
ーーー上手くなるしかないか。練習をやりまくって、上手くなるしかない。
「おい芹沢、何を考えてる?」
数学の小山先生が明の目の前にいた。
「あ、いや…あの、これはですね…」
「だったらもっと考えてもらおうか。あの問題解いてこい」
小山先生が、数式の書かれた黒板を指差した。
「うわあ…」
明は気が滅入りそうだった。
「明、今週末は地方大会だな」
野球部の部室で長瀬がスパイクの紐を結びながら言った。
「あ〜、そうだな〜」
明は話を合わせた。
地方大会か。俺はまだベンチだろうな。活躍できないか。
明は心の中でそう思った。
「今週末は地方大会が始まる。だからこの1週間は強化メニューを行う」
森先生が野球部員に向けてそう言った。
「一年にとってはこれが最初の大会になる。頑張って先輩達のサポートをするんだぞ」
森先生はさらに続けた。
最初…か。明はふと思った。
「一年は応援だけど、試合には出ないからってチームの一員であることには変わりないんだぞ。気を抜かずしっかり応援するんだぞ」
森先生が釘を指すように言った。
チームの一員…か。明はふっと空を見上げた。