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負けてしまったーーー。


古舘はグラウンドに座りこんだ。


負ける要素はひとつもなかったはずだ。


実際に自分達は敵を追いこんだ。


あと一歩のところで、俺は勝てたんだーーー。


中々顔が上げられない。


せっかく柳本先生が来てくれたのにーーー。


「古舘さん、整列しましょう」


大西がそう呼びかけると、古舘はしばらくうつむいた後、ゆっくりと立ち上がり、ホームベースの方に歩いていった。




「ゲームセット!」


審判の声がグラウンドに響き渡る。

それと同時にサイレンがそれ以上のボリュームで響き渡る。


「よっしゃ、勝った!」

「これで準決勝だ!」


明北ベンチは活気に湧いていた。


明はベンチに座ったままうなだれている古舘を見た。

古舘はうなだれたまま動かない。


明は横目で見ながら、帰り支度を始めた。




「…ちょっとそこら辺を散歩してくる」


古舘はやおら立ち上がると、そう言って裏の方に歩いていった。


「…古舘さん…」


大西は古舘の丸くなった背中をじっと見ていた。




古舘はバックネット裏の通路をゆっくり歩いていた。

負けてしまったーーー。

せっかく柳本先生が来てくれたのにーーー。

成長した姿を見せたかったのにーーー。


後悔が滲み出てくる。

もうどうしようもないのに、後悔と自責の念が止まらない。


ついに古舘はその場に座りこんだ。


また顔をうつむかせる。


「…久しぶりだな」


声の方向を見ると、帽子を被った男性がこちらを見ていた。


「や、柳本先生…」


古舘は一瞬を目を丸くしたが、すぐに笑顔に変わった。

その目には涙も光っている。


「…柳本先生!」


古舘はそう言うと、柳本先生と抱き合った。


「…すいません…。せっかく柳本先生が来て下さったのに…。僕、勝つことができませんでした…」


柳本先生はじっと古舘を見つめている。


「僕、柳本先生に成長した姿を見せたくて今まで頑張ってきたのに…。こんな無様な姿を見せてしまって…。本当に…、すいません…」


涙声で古舘は訴える。


柳本先生はゆっくり古舘の方を見ると、


「…お前の頑張りは無駄なんかじゃない」


と言った。


「…え…」


古舘は柳本先生の顔を見る。


「2年前…、私はとても無駄なことをしてしまった。もっとお前達のことを指導しなくてはいけないのに、無駄なことをしてそれが叶わなくなってしまった」


「…で、でもそれは…」


「正直後悔したよ。なんであんなことをしたのかってな。でも、今はまた違う高校で野球部の監督をしているんだ」


「そ、そうなんですか…?」


古舘は柳本先生の顔を見る。


「後悔はしたっていいんだ。その後どう立ち直るかなんだ」


柳本先生は、そう言うと一呼吸おいてから、


「今までよく頑張ったな。私はその姿が見られただけで十分だ」


と古舘の肩を叩いた。


古舘の目から涙が溢れた。


「あ、ありがとうございます…」


古舘は涙声で柳本先生に感謝した。


「じゃあな」


柳本先生はそう言うと、出口に向かって歩き出した。


古舘はいつまでもその姿を見ていた。

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