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明らかに空気が変わった。


試合は今、6回裏である。

点差は2点差。

逆転も不可能ではないのだが、不可能な空気が漂っていた。


それもそのはず。

相手は古巣にいたスゴ腕のピッチャーだ。


先輩たちが全く打てないんだから、自分が打てるはずがない。


明は顔の汗をぬぐう。




そこからは一進一退の攻防が続いた。


楢崎はもう1点もやれないとばかりに、荒谷打線を三振にきってとる。


瀬川もそれに応えるかのように、明北打線を抑え込む。


「熱闘」という言葉がふさわしい状況だった。

もう1点もやれない。

両投手の球のスピードからその気概がありありと伝わってきた。




そして、いよいよ試合は9回。

明北高校は、8番・小宮からだ。


「小宮打てー!」

「なんでもいい!打つんだ!」

「打つまでベンチに帰ってくんな!」


ベンチから様々な声が飛ぶ。


小宮はグリップを握りしめる。


瀬川はゆったりとしたモーションを見せる。

そこに疲れは全く見えない。


「ストライク!」

球審が拳を突き出す。


瀬川の球は衰えるどころか、さらに速くなっているような気さえした。


これは勝ったな。

古舘は笑みを浮かべ、ボールに瀬川に返球する。


「ストライク!バッターアウト!」

小宮がアウトになった。


あれ?これ、負けちゃう。

明はうなだれた様子で打席に立つ。


「明、頼むぞ!」

「必ず打ってくれ!」

「打つまでベンチに帰ってくんな!」


ベンチからは声が飛ぶ。


俺だって打ちたいよ。

明はそう思いながら、グリップが握りしめた。

汗が少しにじんでいた。

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