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「は、速すぎなんですけど…。」
小宮はゆっくりそう呟いた。
楢崎達のかつてのチームメイトの瀬川がマウンドに立つ。
楢崎の話ではかつてはローテーションの一角を担う程の実力を持っていたらしい。
楢崎達が口々にそう言うということは、かなりの投手なんだろう。
たった一球見ただけだが、かなりキレもあるし伸びもある。
これは、攻略するのはかなり難しそうだ。
明がバッターサークルで考えていると、
「明!次!次!」
とベンチから声が飛ぶ。
小宮はいつの間にかアウトになっていた。
「あ、すいません!」
明は慌ててバッターボックスに立つ。
「ボーッとするな!」
「お前も変えるぞ!」
とベンチからは激が飛ぶ。
ちょっと考えてただけだろ。
明は少しムッとして、打席に立つ。
「少しボーッとしてたみたいだね。暑さで頭がクラっとなったのかな?」
古舘が話しかけてくる。
それ、まだやってたのか。
明は古舘の方をチラッと見て、マウンドの方を見た。
そこには明が知らない、明北高校の元エースがいた。
かなりスラッとしていて手足も長い。
いかにも速い球を投げそうだ。
明がそんなことを考えていると、
「明、ボーッとするな!」
「見逃し三振する気か!」
とまたベンチから声が飛ぶ。
「君、ホントに暑さにやられちゃったんじゃない?」
古舘が笑いが混じった声で言う。
くそ、ここぞとばかりに…。
明はバットを握りしめ、マウンドを見つめる。
瀬川はゆったりとしたモーションで第1球を投げた。
本当にムダのないモーションだ。
「ストライク!」
速すぎる。
ベンチから見ているだけでも速かったが、近くで見るとまたその迫力がちがう。
気がつくと、あっという間にうちとられてかいた。
「ストライク!バッターアウト!」
これは速い。
もしかしてこれは負けるかも。
明は最悪の展開を想像した。
続く井川も打ち取られ、チェンジになった。
楢崎のホームランがあったとはいえ、まだ2点差だ。
立脇も怪我をしていて、満足に楢崎の球を捕れるとは思えない。
加えて相手は元チームメイトのスゴい投手だ。
これは詰んだな…。
明がうなだれていると、
「明、ボーッとするな!」
「早く守備につけ!」
とベンチから激がとんだ。
「は、はい!」
明は飛び上がるように返事をし、守備についた。




