(63)
「ピッチャー大西君に変わりまして、瀬川君」
アナウンスがそう告げると、楢崎達は
「瀬川ぁ!?」
と大声を出した。
「そんなに大きな声出さないで下さい。寿命縮まりますよ」
「ワリィ、ワリィ…。」
楢崎が謝る。
「それで、あの瀬川って人、知り合いなんですか?」
「いや、知り合いっていうか…。」
楢崎は息を吸うと、
「昔、うちの部にいたんだ」
と言った。
「えーーーー!」
明も大きな声を出した。
「お前も大きな声を出してんじゃねぇか…」
北野が呆れた様子で言った。
「うちの部活に?なんでですか?」
明は大きな声で尋ねる。
「瀬川と俺たちは、小学校から一緒に野球をやってきたんだよ」
楢崎が言う。
「そ、そうなんですか…」
「すごいいい球を投げるヤツでさ、中学校じゃローテーションの一角みたいな感じで結構速かったんだよな」
楢崎がそういうと大村も、
「そうそう、俺も瀬川のボールを受けてたけど変化球も結構キレがあるんだよな」
と同調した。
明は改めてマウンドを見る。
投球練習をしている瀬川は古舘のミットを目がけてボールを投げている。
そのボールは目で追うだけでも確かに速い。
グッと手元で伸びてかなり鋭い音をさせてミットに吸い込まれていく。
確かにあの球はそう簡単には打てそうにない。
どんなに自身のあるバッターでも、バットに当てるだけで精一杯だろう。
明の体が汗が流れる。
だが、そんなことは言っていられない。
俺は必ず勝つんだ。
俺達は絶対勝てないと思っていたところからここまで追いついてきたんだ。
絶対に勝ってやる。
明は目線を反らすと、素振りを繰り返した。
「プレイ!」
瀬川の投球練習が終わり、試合が再開された。
明はベンチからマウンドを見つめる。
明は瀬川がどんな球を投げるのかは知らない。
明が入学する前に瀬川は明北高校からいなくなっていたから。
ここから勝負だ。
瀬川はゆったりとしたモーションで第1球を投げる。
その球はそのゆったりとしたモーションでは対照的に目にも止まらない速さで古舘の構えたミットに吸い込まれていく。
「ストライク!」
審判の声が響く。
明北ベンチは静まり返った。
バッターボックスの小宮も一言呟くのが精一杯だった。
「は、速すぎなんですけど…」




