(6)
明は学校を後にした。
道を歩いてふと思う。
俺が三振した時、立脇や長瀬、大村はどう思ってたんだろう?
特に長瀬はプロになりたいって言ってたし…
考えていると家に着いた。
「ただいま-」
「お帰りなさ~い」
母の声が響くのと同時に、足音が聞こえた。
「遅かったわね。部活そんなに大変なの?」
「まぁ、俺たち一年は球拾いだけだけどね」
明は冷蔵庫から麦茶を取り出すと、コップに並々と注いだ。
「へぇ、でも最初は球拾いだけでも一生懸命に練習すればレギュラーになれるわよ」
「いつになるかな」
明はコップの中の麦茶を一気に飲み干した。
「じゃ、着替えてこよ」
明はリビングに向かう。妹の光莉が雑誌を読んでいた。
「あ、お兄ちゃんお帰りなさい」
「ただいま」
「ねぇ、野球部の練習ってそんなに大変なの?」
光莉が身を乗り出すようにして聞いた。
「ん~、まぁ俺たちは入ったばっかりだから、球拾いだけだよ。あとはキャッチボールぐらいかな」
「へぇ、まぁ一年生はそんぐらいだよね」
「小学生がわかった振りするな」
明は光莉を殴るふりをした。
「そっちはどうなの?」
「どうって?」
「ほら、お前今年はバドミントンの全国大会あったたろ。あれはどうなったかって聞いてるんだよ」
光莉は少し間を置いて、あぁ、と言った。
「全然ダメだったよ。なんか思うように調子が上がらなくてね。負けちゃった。俊子ちゃんとかぼろぼろ泣いててね。そんなに悔しいの?って聞いたら、悔しいって言ってたよ」
明はそこでハッとした。長瀬もそう思っていたのだろうか。
「俊子ちゃん今まで大会のためにずっと練習頑張ってきたから、すごく悔しかったんだろうね。私だって泣いちゃうもん」
光莉が笑いながら言った。
明は自分の部屋のベットに横たわり、考えていた。
俺が三振しなかったらーー。あの試合で俺が三振しなかったらチームは甲子園に行けたかも知れない。
監督や長瀬は大丈夫だと笑って言っていたが、本当は何を思っていたのか。
もちろん努力はしてきた。練習には毎日かかさず行ったし、家に帰っても素振りを300回ぐらいしてきた。
やれるだけのことはやった。なのに結果が出なかった。
じゃあ、俺がタイムスリップした意味は何だ?
明は寝返りをうった。




