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「立脇!大丈夫か!?」
明たちが立脇の回りに集まってくる。
立脇は頭にボールが当たり、倒れてしまったのだ。
「あいつ...。わざとやったな」
小宮が大西をにらみつける。
「いや...、あいつなんか躊躇した感じだったけど...」
藤田が否定した。
「じゃあ、古舘が...」
臼田が言うと、明北ナインは一斉に古舘の方を見た。
古舘は大西のもとに駆け寄って話をしている。
「あいつが指示したんだな。立脇が挑発したから...」
小宮が今度は古舘をにらみつける。
「俺、アイツに文句言ってやる!」
小宮がマウンドに向かって歩き出す。
「おい、小宮待てよ!」
小宮の肩を臼田が押さえて止める。
「文句つけたってどうにかなる話じゃないだろ!」
「一言言ってやらないと気が済まないんだよ!」
「なんて言うつもりなんだよ」
「ボールをぶつけたらダメなんだぞ、って」
「小学生か!」
小宮と臼田が言い争っていると、
「う、ううう...」
と立脇の声がした。
「立脇!大丈夫だったのか!」
井川が立脇を支える。
「...はい、なんとか...」
「よかったぁ。立脇が起きなかったら、小宮が乱闘騒ぎをおこして、逮捕されるとこだったよ」
「バカ!一言言ってやるだけだよ!」
「でも、あの時の小宮の目はギラギラしてたもんな」
「ギラギラしてもないし、させてもねぇよ!」
小宮たちが小競り合いをしてる最中に、森先生が立脇に駆け寄る。
「立脇、大丈夫か?代走出すか?」
「いや、自分で立てますから」
立脇は立ち上がり、手に付いた砂をはらった。
「それに、僕はこの試合に負ける気はないですから」
立脇はマウンドをチラッと見た。
「あの子...なかなかしぶといね」
古舘は立脇を見て言った。
「あの、古舘さん...」
大西がためらいがちに言った。
「今のデッドボール...、古舘さんが指示しましたよね?」
「あぁ、そうだよ」
古舘は悪びれることなく言った。
「な、なんでそんなことを...」
「あの子は僕たちがどういう人間っていうのがわかってないんだよ。だから、ちょっとしたお仕置きさ。それに...」
古舘は少し間を置いて言った。
「俺達は頑張らなきゃいけないだろ。あんな事件に引っ張られないようにさ」
「は、はい...」
'「わかったら、バッターを抑えることに集中しろ」
「...わかりました」
大西がそう言うと、古舘はポジションに戻っていった。
一塁側の荒谷高校のスタンドに、一人の中年男性が腰かける。
帽子を目深にかぶり、半袖のTシャツとジーンズ姿の男性は荒谷高校のベンチに目を向ける。
「大西...。うまくやっているようだな」
男性はそう言うと、笑みを見せた。
「バッターアウト!チェンジ!」
大西はその場をしのいだ。
「くそぉ。もう少しで逆転できたのに」
臼田が悔しそうにベンチに戻ってくる。
「ドンマイ!まだイケるぞ!」
井川が励ます。
「大西、よくしのいだな」
古舘が大西に声をかける。
「えぇ、なんとか」
大西がふと一塁側のスタンドに目をやると、
「...あ!」
と声をあげた。
「何?トイレ?」
「いや、古舘さん、あれ...」
大西が指さす方向を見ると、
「...監督」
と古舘の目もそこに釘付けになった。
古舘が指差した先にいたのは、あの帽子を目深にかぶった中年男性だった。




