(54)
立脇は自信をつけたのか、楢崎の速球を捕り続けた。
「ストライク、バッターアウト!チェンジ!」
4回裏の攻撃を終え、明北ナインがベンチに戻ってきた。
「立脇、いいぞ!」
「お前、やればできるじゃねぇか!」
「好感度上がったぞ!」
立脇は照れくさそうに先輩達の誉め言葉を聞いていた。
立脇は大村の方を見る。大村も立脇の方を見て、
「立脇、よくやったな。これなら安心して任せられるよ」
と笑った。
立脇も照れくさそうに笑った。
5回表、明北の攻撃。
8番の小宮が打席に立つ。
「あのさぁ、いい雰囲気のところ悪いんだけどさ、こっちの方がリードしているんだよねぇ。忘れてない?」
古館がイヤミを飛ばす。
確かにな。
明はバッターサークルで準備しながらそう思った。
10-4と6点もリードされている。
加えて大西はナックルボーラーだ。
そう簡単に点が取れるわけがない。
「ストライク!バッターアウト!」
小宮があっという間に三振になった。
「くそぉ、あのナックルを打つ方法はねぇのかよ!」
臼田が膝を叩いた。
「投げるピッチャーですら軌道が予測できないからね...」
森先生もあきらめムードだ。
くそ...。ここで負けるのかよ。
明は打席に立った。
大西は第1球を投げた。
ボールがゆらゆらと揺れて、ミットにすっぽりとおさまった。
「ストライク!」
「オイ、初球からナックルかよ!」
北野が声をあげる。
参ったな。これじゃ打つことすら難しいぞ。
明は構えを修正した。
...待てよ。
打つことはできなくても、当てることはできるんじゃないか。
大西は第2球を投げた。
明がバントの構えを取る。
ボールはまたゆらゆら揺れている。
「明のヤツ、バントをするつもりだ!」
「打つのが難しいのに当てられんのかよ」
頼む。当たってくれ。
明は祈った。
すると、コンと乾いた音がした。
明がボールを見ると、ボールは三塁線を転がっていた。
「明、走れ!」
楢崎の言葉に明は一塁に突っ込んだ。
「俺が捕る!」
古館はそう言ってボールを素手で掴み、一塁に投げた。
ボールは一直線に一塁に飛んでいく。
これで、ツーアウトだ。
が、ボールはわずかに左にそれた。
「セーフ!」
明北ナインが歓声をあげた。
「明、でかしたぞ!」
「ナイスラン!」
明はその声援にガッツポーズでこたえた。
「俺のナックルが...、とらえられただと!?」
大西がガックリ肩を落とした。
その様子を古館がじっと見つめていた。




