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3回表、大西の投げるナックルに北野、楢崎、藤田は三振にきってとられた。
「あんなボール反則だよ!レッドカードだよ!」
北野が怒りをあらわにした。
「おい、それサッカーだろ」
井川が言うと、
「わかっとるわ!」
と北野が逆ギレした。
「逆ギレすなや!」
井川も逆ギレした。
「ハイ、次は守備だからはよいけ!」
岩崎が二人の背中を軽く押した。
「はい…」
二人は気まずそうに守備についた。
3回裏。荒谷高校の攻撃。
打順は9番の大西。
楢崎は第1球を投げた。
「ストライク!」
大西はバットを振らず、ただミットの中を見つめた。
あいつ、狙いをしぼっているな。
大村は楢崎に一球外すようにサインを出す。
楢崎はうなずき、大村の構えたコースに投げる。
「ボール!」
審判がコールする。
「あの投手、慎重にストライクを取りにいってるね」
古舘が言った。
「まぁ、先ほどホームランを打たれたらねぇ」
坂本が同情する。
「ストライク!」
カウントツーストライクスリーボール。
大西はじっくり球を選んででいた。
「ファール!」
大西の打球は三塁線をわずかに左にそれた。
もう10球目である。
楢崎は11球目を投げる。大西はまたそれをファールにした。
なんだアイツ。もう6球続けてファールにしているぞ。
明は目を丸くして大西を見ている。
それもそのはず、大西はもう11球も粘っているのだ。
際どいボールはファールでカットして、粘り強いバッティングをみせていた。
「大西張り切りすぎじゃない?なんかスタミナのつく物でも食べたのかな?」
古舘が頬杖を付きながら言った。
「うなぎとか食ってきたんスかね」
坂本が言うと、
「そんなヤツいないよ」
とバッサリ斬った。
「ファール!」
大西はもう15球も粘っていた。
なんだコイツ。なかなか三振しないな。
楢崎は額の汗をぬぐった。第16球を投げた。
大西はそれをまたファールにした。
カウント2-3。楢崎は第17球を投げた。
「ボール!」
ボールは右に外れ、フォアボールとなった。
「しつこかったなぁ」
「ホントになぁ」
井川と沢田が話し合った。
「フッ、これからさ」
古館はニヤリとした。
1番の高橋が打席に立つ。
楢崎は肩で息をしていた。
そうか。
明はあることに気がついた。
楢崎は大西に17球も投げている。
大西は楢崎を疲れさせるために球数を投げさせたのだ。
「サード!」
臼田の声に明はハッとして前を見た。
と同時に、明の横をボールがすごいスピードで駆け抜けていった。
ノーアウト1、2塁。
「おい明!何よそ見してんだよ!」
藤田が怒鳴る。
「すいません」
明は慌てて謝る。
続く2、3番もヒットを打ち、ついに1点を返された。
3-4。ノーアウト2、3塁。
野手は楢崎のもとに集まった。
楢崎はまだ肩で息をしている。
「どうしたんだよ。バカスカ打たれてんじゃねーかよ」
北野が言った。
「やっぱ大西に球数を投げさせられたから、相当スタミナ削られてんだよ」
臼田が相手ベンチに目をやりながら言った。
「しかも次はあの古館だぞ」
藤田がそう言うと、野手達は一斉にバッターボックスの外で素振りをしている古館を見た。
「抑えるしかねぇよ。どんな状況だって俺は抑えるしかないんだから」
楢崎がボールを強く握りしめる。
「よし、頼んだぞ」
臼田がそう言うと、野手達は一斉に戻っていく。
「プレイ!」
楢崎は深呼吸し、第1球を投げた。
ボールの速さもキレも文句なしだ。
イケる!
明がそう思った時、古館がフルスイングでそのボールを捉えた。
ボールは快音を響かせ、レフトスタンドへ吸い込まれていった。
ホームラン。
恐れていたことが起こってしまった。
これで、6-4。逆転されてしまった。
最悪だ。
明はガクッと肩を落とした。
楢崎の方に目を向ける。楢崎はまだ肩で息をしていた。
明北ナインはベンチに戻ってきた。
あれからなんとかチェンジにしたものの、やはり逆転されたショックは大きいのか、みんなうなだれていた。
「プレイ!」
5番の大村が打席に立つ。
が、大西の前にあえなく三振。
その時大村はよろけて、手から地面についた。
「うっ!」
手に激痛が走った。
結局点は取れず、4回裏の荒谷高校の攻撃になった。
楢崎が第1球を投げる。
「ストライク!」
審判が勢いよく腕をあげる。
が、大村はボールをミットからこぼし、手を抑えてうずくまった。
「大村!大丈夫か!」
楢崎が叫んだ。それと同時に野手達が大村のもとに駆け寄ってくる。
「タイム、タイム!」
森先生もたまらずベンチから飛び出てきた。
「ちょっと、手を見せてくれ」
森先生が大村のミットを外す。
「うぁあ!」
大村の手にまた痛みが走る。
大村の手は腫れて赤くなっていた。
「ダメだ…。この手で球を受け続けていたら、一生直らないかもしれないぞ!」
森先生の言葉に明北ナインに一斉に緊張が走った。
「代役を立てなきゃな…。」
森先生は野手の方に目を向ける。
野手は全力でできないという意思表示をした。
「…しょうがないな…」
森先生は一つため息をついた。
「なんだ?大村先輩ケガしたのか?」
長瀬がグラウンドの方を見て言った。
「なんかそうみたいだな」
立脇もグラウンドの方を見て言った。
すると、アナウンスを知らせるチャイムがなった。
「あ、交代するみたいだよ」
美穂が言う。
「やっぱりケガしたんだ」
長瀬が言う。
『明北高校の選手の交代をお知らせします。キャッチャーの大村君に変わりまして、立脇君がキャッチャーに入ります。』
長瀬と美穂が一斉に立脇の顔を見る。
「え?俺?」
立脇はきょとんとしてグラウンドを見つめた。




