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「あら、明くん。今日は遅いわね」

グラウンドに行くとベンチに美穂が座っていた。当然だが、若い。

「うん、ちょっとね」

明はベンチに座り、セカンドバッグからグローブを取り出した。また、汚れていない。改めてタイムスリップしたことを実感した。

「よし、一年はキャッチボールだ。いいな」

グラウンドから声がした。明は声のする方を見てハッとした。野球部の前キャプテンの高岡幸彦先輩だ。とても厳しいことで部員達で有名になっていた。

今は何してるんだろうー。ふっとそんなことが頭をよぎった。

「明、もたもたするな。そんなんじゃレギュラーになれないぞ。ほら早く」

気がつくと、高岡が目の前にいた。

「あ、はい、今行きます」

明はグローブを抱えてグラウンドに走って行った。

「明くん、一緒にキャッチボールしようよ」

大村裕一が声をかけてきた。

大村はとても大きな体をしている。しかも飛び抜けて大きいため、存在感がとてつもない。確か立脇とバッテリーを組んでいた。

「あぁ、大村、一緒にやろう」

明はうなずいた。




野球部の練習が終わった。疲れた。野球部の練習ってこんなに疲れるものだったのか。

「よーし、今日の練習はここまで。一年はグラウンド整備と道具の片付けを始めろ」

森先生の声が響く。それに合わせて一年が一斉にグラウンドに駆け出す。

「あぁ、一年だけなんでこんなことをさせられるのかねぇ。疲れてるのはこっちも同じだってぇのに」

長瀬が深いため息とともにそう言った。

「しょうがないよ。どこの野球部だって最初はこんな感じだよ」

立脇が諭すように言った。

「ふーん、そんなもんかね」

「一年は先輩が甲子園に行けるように助けていきながら、チームの一員としても頑張っていくっていう時期なんだから」

「でもさすがに毎日こうだと飽きちゃうよなぁ」

大村が笑いながら言った。

「だろ?大村はわかってくれるんだな。明はどう思う?」

「え?俺?」

明は急に話を振られてびっくりした。

「で、でも、こういう時期も先輩達も経験してるんだし、文句いっても仕方ないんじゃない?」

「かぁ~お前まで恭ちゃんの肩持つのかよ」

長瀬がまた深いため息をついた。ちなみに「恭ちゃん」とは立脇のあだ名である。

「いや、肩を持つって訳じゃないけどさ…」

「もういい。わかったよ。そんじゃあ俺は甲子園のスターになってやる」

「スターって…」

「おうよ。甲子園で優勝して、プロにたくさん指名されて、球界に名を残すんだよ」

「勝手にしてくれよ」

立脇は構ってられない様子でグラウンド整備を始めた。大村はクスクス笑っている。

プロか。俺があそこで三振しなかったら、長瀬はプロになれたんだろうか?

明はふと、そんなことを思った。

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