(5)
「あら、明くん。今日は遅いわね」
グラウンドに行くとベンチに美穂が座っていた。当然だが、若い。
「うん、ちょっとね」
明はベンチに座り、セカンドバッグからグローブを取り出した。また、汚れていない。改めてタイムスリップしたことを実感した。
「よし、一年はキャッチボールだ。いいな」
グラウンドから声がした。明は声のする方を見てハッとした。野球部の前キャプテンの高岡幸彦先輩だ。とても厳しいことで部員達で有名になっていた。
今は何してるんだろうー。ふっとそんなことが頭をよぎった。
「明、もたもたするな。そんなんじゃレギュラーになれないぞ。ほら早く」
気がつくと、高岡が目の前にいた。
「あ、はい、今行きます」
明はグローブを抱えてグラウンドに走って行った。
「明くん、一緒にキャッチボールしようよ」
大村裕一が声をかけてきた。
大村はとても大きな体をしている。しかも飛び抜けて大きいため、存在感がとてつもない。確か立脇とバッテリーを組んでいた。
「あぁ、大村、一緒にやろう」
明はうなずいた。
野球部の練習が終わった。疲れた。野球部の練習ってこんなに疲れるものだったのか。
「よーし、今日の練習はここまで。一年はグラウンド整備と道具の片付けを始めろ」
森先生の声が響く。それに合わせて一年が一斉にグラウンドに駆け出す。
「あぁ、一年だけなんでこんなことをさせられるのかねぇ。疲れてるのはこっちも同じだってぇのに」
長瀬が深いため息とともにそう言った。
「しょうがないよ。どこの野球部だって最初はこんな感じだよ」
立脇が諭すように言った。
「ふーん、そんなもんかね」
「一年は先輩が甲子園に行けるように助けていきながら、チームの一員としても頑張っていくっていう時期なんだから」
「でもさすがに毎日こうだと飽きちゃうよなぁ」
大村が笑いながら言った。
「だろ?大村はわかってくれるんだな。明はどう思う?」
「え?俺?」
明は急に話を振られてびっくりした。
「で、でも、こういう時期も先輩達も経験してるんだし、文句いっても仕方ないんじゃない?」
「かぁ~お前まで恭ちゃんの肩持つのかよ」
長瀬がまた深いため息をついた。ちなみに「恭ちゃん」とは立脇のあだ名である。
「いや、肩を持つって訳じゃないけどさ…」
「もういい。わかったよ。そんじゃあ俺は甲子園のスターになってやる」
「スターって…」
「おうよ。甲子園で優勝して、プロにたくさん指名されて、球界に名を残すんだよ」
「勝手にしてくれよ」
立脇は構ってられない様子でグラウンド整備を始めた。大村はクスクス笑っている。
プロか。俺があそこで三振しなかったら、長瀬はプロになれたんだろうか?
明はふと、そんなことを思った。




