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楢崎が投球練習を始めた。
球はスゴい速さで大村の構えるミットに吸い込まれていく。
ケガをする前の楢崎に完全に戻っていった。
「へぇ、あのピッチャーなかなか速いね」
古舘がボソッと言う。
「でも、古舘さんだったら打てますよね!」
坂本がゴマをする。
「あのさ、お世辞だってバレバレだよ。なんでも媚びへつらえばいいってもんじゃないんだから」
古舘がたしなめると、
「あ、すいません」
と坂本が謝った。
「いや、ポジティブな言葉を言ってくれるのはスゴい嬉しいんだけどさ、今のは白々し過ぎるんだよ。もちっと考えて発言しないと」
「すいません」
坂本が謝った。
「まぁいいや。この試合は消化試合みたいなモンだからさ」
古舘はそう言うと、背もたれにもたれかかった。
荒谷高校の攻撃。
1番の高橋が打席に立つ。
楢崎は深呼吸をし、ゆったりとしたモーションで第1球を投げた。
球はグングン伸びていき、大村のミットにおさまった。
「ストライク!」
審判が高々と手を挙げる。
「いいぞ!楢崎!」
「どんどんいけ!」
内野や外野から声が出る。楢崎は笑ってそれに応える。
「へぇ、確かにあのボールは普通じゃ打てなさそうだね」
古舘は体制を変えずに言った。
「確かに手元ですごい伸びてきますね」
田中がそれに合わせる。
「でも、それだけだよ」
古舘はニヤッと笑った。
「バッターアウト!チェンジ!」
荒谷高校の攻撃は3人で終わった。
「楢崎!いいぞ!」
沢田が楢崎に声をかける。
「なんか、やっと投げている気がするよ」
楢崎は派手なガッツポーズをした。
「よし、こっから本気出すかぁ」
古舘は肩を回しながら、サードに向かった。
「よし!小宮いけ!」
明北高校の攻撃は、8番の小宮からである。
大西が第1球を投げた。
「ストライク!」
小宮のバットが一回転する。
「速っ!なんだあのボール!」
井川が驚く。
続く第2球。
内角の球を小宮が叩いた。
「よっしゃ!小宮、走れ!」
ボールは三塁線をテンテンとしている。
うまくいけば内野安打になりそうだ。
すると、古舘がそのボールを素手で掴むと、ものすごい速さでファーストに投げた。
「アウト!」
ヘッドスライディングした小宮がハッと顔をあげる。
「信じられない速さだったぞ…」
沢田が目を丸くする。
「俺が本気出しゃこんなもんなんだから。悪いけど、もう塁を踏ませる気はないよ」
古舘が得意気に言う。
まずいな。あれじゃバンドもできない。
明は気が滅入りながら打席に立つ。
しょうがない。飛ばすしかない。
明はバットを握りしめた。
大西は第1球を投げた。
しかし、それは遅かった。
打てる!
明はフルスイングした。
その時、ボールはゆらゆらと揺れ、バットを避けるようにミットにおさまった。
なん…だと…?
「ストライク!」
しんと静まり返った球場に、審判の声がこだました。
古舘は静かにニヤッと笑った。




