表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
48/90

(48)

楢崎が投球練習を始めた。

球はスゴい速さで大村の構えるミットに吸い込まれていく。

ケガをする前の楢崎に完全に戻っていった。

「へぇ、あのピッチャーなかなか速いね」

古舘がボソッと言う。

「でも、古舘さんだったら打てますよね!」

坂本がゴマをする。

「あのさ、お世辞だってバレバレだよ。なんでも媚びへつらえばいいってもんじゃないんだから」

古舘がたしなめると、

「あ、すいません」

と坂本が謝った。

「いや、ポジティブな言葉を言ってくれるのはスゴい嬉しいんだけどさ、今のは白々し過ぎるんだよ。もちっと考えて発言しないと」

「すいません」

坂本が謝った。

「まぁいいや。この試合は消化試合みたいなモンだからさ」

古舘はそう言うと、背もたれにもたれかかった。





荒谷高校の攻撃。

1番の高橋が打席に立つ。

楢崎は深呼吸をし、ゆったりとしたモーションで第1球を投げた。

球はグングン伸びていき、大村のミットにおさまった。

「ストライク!」

審判が高々と手を挙げる。

「いいぞ!楢崎!」

「どんどんいけ!」

内野や外野から声が出る。楢崎は笑ってそれに応える。

「へぇ、確かにあのボールは普通じゃ打てなさそうだね」

古舘は体制を変えずに言った。

「確かに手元ですごい伸びてきますね」

田中がそれに合わせる。

「でも、それだけだよ」

古舘はニヤッと笑った。






「バッターアウト!チェンジ!」

荒谷高校の攻撃は3人で終わった。

「楢崎!いいぞ!」

沢田が楢崎に声をかける。

「なんか、やっと投げている気がするよ」

楢崎は派手なガッツポーズをした。





「よし、こっから本気出すかぁ」

古舘は肩を回しながら、サードに向かった。

「よし!小宮いけ!」

明北高校の攻撃は、8番の小宮からである。

大西が第1球を投げた。

「ストライク!」

小宮のバットが一回転する。

「速っ!なんだあのボール!」

井川が驚く。

続く第2球。

内角の球を小宮が叩いた。

「よっしゃ!小宮、走れ!」

ボールは三塁線をテンテンとしている。

うまくいけば内野安打になりそうだ。

すると、古舘がそのボールを素手で掴むと、ものすごい速さでファーストに投げた。

「アウト!」

ヘッドスライディングした小宮がハッと顔をあげる。

「信じられない速さだったぞ…」

沢田が目を丸くする。

「俺が本気出しゃこんなもんなんだから。悪いけど、もう塁を踏ませる気はないよ」

古舘が得意気に言う。

まずいな。あれじゃバンドもできない。

明は気が滅入りながら打席に立つ。

しょうがない。飛ばすしかない。

明はバットを握りしめた。

大西は第1球を投げた。

しかし、それは遅かった。

打てる!

明はフルスイングした。





その時、ボールはゆらゆらと揺れ、バットを避けるようにミットにおさまった。

なん…だと…?

「ストライク!」

しんと静まり返った球場に、審判の声がこだました。

古舘は静かにニヤッと笑った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ