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「プレイ！」

試合が始まった。

一番の井川が構える。

強豪校のピッチャーはどんな球を投げるのか。

明はドキドキしながら見つめていた。

大西は振りかぶって、第一球を投げた。

しかし、その球は強豪校のピッチャーにしてはあまりにも遅い球だった。

これなら打てる。

井川は思いっきり打った。

ボールはライトのはるか後ろに落ちた。

「よっしゃあ！」

明北ベンチが沸き返る。

「北野ぉ！バントなんかせずに打てぇ！」

「相手のピッチャーはザルだぞ！スッカスカだぞ！」

２番の北野が打席に立つ。

またしても大西は遅い球を投げた。

北野はまたしてもボールを引っ張った。

ノーアウトニ、三塁。３番の楢崎が打席に立つ。

「楢崎ぃ！快気祝いに一発いっとけ！」

「タダの怪我だっつうの」

楢崎に対しても、大西は遅い球を投げた。

これなら打てる！

楢崎はボールをレフト方向に引っ張った。

ランナーが２人かえって、なおもノーアウトニ塁。

「藤田！追加点狙ってけ！」

小宮が叫ぶ。

どういうことなんだ…？

明は不思議に思った。

強豪校のピッチャーにしてはあまりにも球が遅すぎる。

明は大西をチラッと見る。大西は打たれているのに、平然としている。

おかしい。

大西はまた遅い球を投げた。

藤田はそれをフルスイングした。

ボールはレフトスタンドにキレイに入った。

「やった！これで４点目だ！」

「笑いが止まらねぇぜ！」

明北ベンチはもう勝ったみたいに沸いていた。

これは裏がある。明はそう確信した。

５番の大村が打席に立つ。

「大村ぁ！またホームラン頼むぞ！」

明北ベンチから声が飛ぶ。

すると古館が、

「大西、もういいぞ！」

と大西に声をかけた。

大西は頷くと、これまでと比べて大きく振りかぶって投げた。

ボールは今までの球と違い、ものすごい速さでミットにおさまった。

「ス、ストライキ！違う、ストライク！」

審判も言葉を間違えるほどの速さだった。

「いきなり速くなったぞ…」

「なんだあの球は…」

明北ベンチは先程の歓喜から一転してどんよりとした空気になった。

「わかんないの？手加減してやったんだよ。君らみたいな無名の高校は、俺たち荒谷高校には逆立ちしたって勝てないんだから、ハンデとして４点をプレゼントしたんだよ」

古館が言った。

やっぱり。明はため息をついた。

「俺たちナメられていたのか…」

井川が呆然として言った。

「さぁ大西、さっさと三振ショーを見せてやってよ」

古館が嫌味を言うと、大西は大村を三振にした。

臼田と沢田も三振でチェンジになった。

「クッソ！ナメやがって！」

大村が帽子を握りつぶした。

「まぁまぁ、ポジティブに考えよう。これを守りきれば俺たちは勝てるんだから」

井川が大村をたしなめた。

「それに、ウチには楢崎がいるんだぜ。楢崎ならなんとかしてくれるよ」

小宮が大村に言うと、

「そうだな」

と大村は笑って、ポジションについた。

明はマウンドを見る。楢崎は軽やかにピッチングしている。

大丈夫そうだな。明はそう思った。

「明ぁ！あのクソ野郎をやっつけろ！あいつに目にものを見せてやれ！」

立脇の薄汚いヤジを背に、明はポジションについた。