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試合当日。
いくつになってもこの瞬間は緊張するものなんだなぁ、と明は実感していた。
一昨日に偶然バッティングセンターで敵に遭遇し、見事なまでに因縁ができてしまった。
しかもそこは強豪校。厄介な相手に目をつけられたな。
あの日の帰り道、立脇はぶつぶつ文句を言っていたし、長瀬と美穂はそれを不思議そうに眺めていた。
長瀬と美穂は立脇のことを明に聞いてきたが、明は、
「今日、全然打てなかったみたい」
と、適当にお茶を濁していた。
なんかまた、めんどくさいことになりそうだな。
明はグローブを見つめながら思った。
「楢崎、調子取り戻してるな!」
ブルペンに座って楢崎の球を受けている大村が誉めた。
楢崎は、
「まーな」
と返事した。
グラウンドの三塁側ベンチに座った明北ナインは、荒谷高校の練習を見ていた。
明はチラチラと目をやる。
その時、三塁に古館の姿があった。
あいつサードなのか。
明はしばらく見たあと、目線を反対側に移す。
やはり強豪校というだけあって、ボール捌きやら球の速さやらがスゴい。
ボールを取ってから送球するまでの流れが実にスムーズで、思わず見とれてしまうぐらいだった。
すげぇ。さすが強豪校だな。
明も見とれていると、
「明、練習行くぞ」
と井川が肩を叩いた。
「あ、はい、すいません」
明はグローブを持ってサードに向かった。
「あれ?あの子もスタメンなんだ」
古館はグラウンドを見つめて言った。
「坂本、あの子何年生なの?」
古館は傍らの筋肉質の男に話しかけた。
「はい、一年生です」
坂本永一郎は答えた。
「一年生なの?それで俺たちにケンカ売ったの?礼儀知らずな子だね~」
「ホントに、ウチの古館さんにケンカ売るなんて、礼儀知らずですよね~」
メガネをかけた田中恭輔が薄ら笑いを浮かべて言った。
「それ、さっき俺が言ったよ」
「あ、すいません」
田中は頭を下げた。
「なるほど…。芹沢明っていうんだ…。」
古館はニヤリと笑った。
「お願いします!」
明北と荒谷の選手が整列し、試合が始まった。
明北高校は先攻。明はベンチに向かった。
マウンドに向かおうとした荒谷高校のピッチャーの大西晃一に、古館が声をかけた。
「大西さ、ちょっと作戦思いついたからよろしくね」
古館が大西に耳打ちすると、
「え?それでいいのか?」
と大西が驚いた。
「俺を誰だと思ってんの?荒谷高校のキャプテン・古館裕一だよ。俺の作戦は間違いないんだから」
古館は大西を納得させるとベンチに戻った。
これから存分に楽しもうぜ。
古館はまたニヤリと不敵な笑みを浮かべた。




