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試合はいよいよ九回裏。
明北高校の攻撃を残すのみになった。
その後も金橋高校は速水、田口の連続ヒットで2点を追加した。
3-6。絶望的だった。
打順は2番の北野から。
「北野!なんでもいいから塁に出ろ!」
「北野!塁に出なかったらなんか奢れ!」
ベンチから口々にヤジが飛ぶ。
俺だって塁に出てぇよ。
北野は打席に立つ。
速水の球速は全く衰えておらず、あっという間に北野を三振にした。
「あぁ~」
明北ベンチからため息混じりの声が漏れた。
続く岩崎も三振。
これで追い込まれた。
やっぱり無理だったのか。
明は肩を落とす。
速水はまだ球の勢いが衰えていない。ということは3点差をひっくり返すなんて、無理な話なのだ。
やはり未来なんて変わらないのか。
先発メンバーに選ばれたというのに。
夜遅くまで練習したというのに。
藤田がバッターボックスに立つ。
まずいな。藤田の顔に汗が流れる。
俺がなんとしても塁に出ないと、確実にこの試合は終わる。
藤田はバットを強く握り直した。
楽しませてくれたけど、これで終わりや。
速水は藤田の方を見つめる。
そして、田口をチラッと見る。
田口、お前はいい相棒や。
これからは俺とお前で、世間をあっと言わせてやろうぜ。
お前となら、俺はなんだってできるんや。
速水は振りかぶって、投げた。
すると、藤田はバントの構えを取った。
フン、手が尽きたな。
速水は勝利を確信した。
すると藤田はまたバットを持ち直し、鋭く球を打った。
ボールはセンター前に落ちた。
バスター…だと…?
速水は唖然とした。
「よっしゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
明北ベンチは歓喜に沸いた。
「いいぞ!藤田ぁ!」
「後で北野がジュースが奢ってくれるぞ!」
「奢るってそういうことか!」
北野がツッコミを入れると、明北ベンチは笑いに包まれた。
クソ、小細工しやがって。
速水は明北ベンチを睨む。
今度こそ終わりや!
5番の大村に向かってボールを投げた。
「ボール!」
審判がコールする。
バカな。俺はストライクを投げたはずだ。
速水はその後もボールを投げるが、ついにフォアボールになってしまった。
「よっしゃあ!またランナー出たぞ!」
明北ベンチがまた沸いた。
どうしてなんだ?
速水は思わず自分の利き腕を見つめる。
続く臼田にもフォアボールを与えてしまった。
「ピッチャー元気なくなってきたよ!」
「満塁、満塁!」
明北ベンチはなおも元気だ。
「タイム!」
田口がタイムを取った。田口を含めた野手がマウンドの速水の所に駆け寄った。
「お、おい…、大丈夫や…。ちょっと手が滑っただけや」
精一杯の笑顔を浮かべる速水に、
「速水、ピッチャー交代しよう」
と田口が言った。
「何…?」
速水は田口の顔を見た。




