(4)
「おい、明」
誰かに呼ばれている声がする。この声は長瀬だ。
明はゆっくり目を開けた。
そこには、明北野球部のグラウンドだった。
どうなってるんだ?と、明は回りを見渡した。しかし、いくら見てもそこは三年間練習してきたグラウンドだった。
「おい、こんな所で何突っ立ってんだよ。早くグラウンドいくぞ」
長瀬が明の背中を小突いた。
「な、何すんだよ。早く公園行こうぜ」
明は戸惑いながら長瀬に言った。
「は?何言ってんだよ。俺たち一年は球拾いだろ?」
一年?何をいってるんだ長瀬。俺たちは三年じゃーー。
明はそこでハッと気づいた。
こ、これってまさか、タイムスリップってやつじゃないのか?
ーまさか。俺にそんなことが出来るはずがない。あれは漫画でしかないんだから。
いや?待てよ?そういやさっき頭痛がしたな。あれがタイムスリップのサインだったのか。それにしても何でー。
明は情報を整理した。自分はタイムスリップしたこと。そしてタイムスリップした先が一年の時だったこと。
「まさか俺がタイムスリップしちゃうなんてなぁ」
明はつぶやいた。
「おい、明、練習に遅刻するぞ」
声と同時にせかせかした足音がこちらに向かってくる。
「明、ここにいたのか。一年は早くグラウンドに来るように森先生に言われてるだろ」
そう言ったのは、同級生の立脇恭一だった。確か野球部のキャプテンだった。
「あぁ、今行く」
「早くしろよな」
恭一はそう言うとせかせかとグラウンドにかけていった。
さ、俺も行くか。明は部室に入った。