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紅白戦は終了した。

結果は赤チームの勝利。

小塚はあの後完全に崩れ、4失点で5回でマウンドを降りた。

対する速水は次々と三振を奪い、打ってもホームラン1本、ヒット2本の大活躍だった。

誰の目から見ても、どっちが先発に選ばれるのは明らかだった。

「みんな、お疲れ様。この結果を踏まえて、金曜日に大会のメンバーを発表する」

監督がそう言うと、選手はハイ、と一斉に返事をした。




「気に入らねぇな」

部活の帰り道、小塚は苦虫を噛み潰したような顔で言った。

「何が気に入らねぇんですか?」

松田が尋ねた。

「速水に決まってんだろ。アイツたまたま調子が良かっただけなくせに、俺に元気出して下さいって言うんだよ」

「うわ、上から目線」

榎本が肩を震わせる仕草をした。

「あいつ、前々から気に入らねぇんだよ。才能があるぐれぇでエースを気取ってよぉ。金橋中学のエースは俺なはずなのに」

小塚はまた顔をしかめる。顔のシワがまた深くなっていく。

そうなのだ。先発に選ばれたのは小塚ではなく、後輩の速水だったのだ。

とはいえ、紅白戦の結果を見れば明らかなのだが。

「実績でいったら俺の方が遥かに上だ。ストレートのキレだって、スタミナだって、パワーだって上だ。今日の紅白戦はたまたま調子が悪かっただけなんだよ」

小塚はまだ納得がいかない様子でまくし立てる。

「でも、どうするんスか?もう決まっちゃいましたし…」

松田が尋ねる。

「いや、俺にいい考えがある」

小塚がニヤッと笑う。

「うわ、小塚さんがこの世のものとは思えない悪人顔をしてる!」

榎本が叫ぶと、

「うるせぇ!そこまでヒドイ顔じゃねぇ!」

と小塚がツッコんだ。





次の日の練習終了後、速水は小塚たちに呼ばれた。

速水が指定された部室の倉庫に行くと、小塚たちは腕組みしながら待ち構えていた。

まるで巌流島で宮本武蔵を待つ佐々木小次郎のように。

「おい、遅いぞ速水!」

小塚が叫ぶ。

「あぁ、すいません」

速水は謝りながら、小塚たちの所に走った。

速水が息を切らして小塚たちの所についた時、小塚は言った。

「お前さ、今月の部の目標知ってるよな?『時間厳守』って」

「すいません」

速水はさっきから謝ってばかりだ。

「遅れるなら遅れるで事前に連絡しとけよ。そうしたら―――」

「あの、熱心な注意の途中ですけど、そろそろ本題を…」

小塚の説教を松田が止める。

「あ、そうだった」

小塚は気付き、咳払いをする。

「速水、今度の大会の先発を俺に投げさせてくれないか?」

小塚は速水の目をまっすぐ見て言った。

「え?な、なんでですか?」

速水は戸惑う。

「まぁ、なんというか…、お前はまだ2年生だし、まだ未熟な部分もあるし、もし負けてもまたチャンスがあるだろ?俺なんかは今年最後だし…」

小塚は昨日考えてきた精一杯の言い訳を、申し訳なさそうに言う。

「で、でも…」

速水は煮え切らない返事ばかりをしている。

「お前だってさ、今年最後の先輩に花を持たせてやりたいと思わないか?今年最後の先輩にのびのび投げさせてやりたいと思わないか?」

「今年最後の」の所に力を入れて、小塚は速水に迫った。

「小塚さんには悪いと思ってるんですけど、選ばれたのは僕ですし、精一杯頑張ろうと思うんですけどーー。」

「俺は今精一杯頑張る時なんだよ。なぁ、頼むよ」

小塚はなかなか帰らないセールスマンの如く粘る。

すると、速水は小塚たちの方に向き直り、

「僕は大会で精一杯投げます!小塚さん、ごめんなさい!」

と頭を下げた。

小塚たちはしばらく黙っていたが、

「ーーーしょうがねぇな」

と小塚が口を開いた。

「手荒なマネはしたくねぇんだが、こうなった以上、そうもいってられねぇ。よし、やれ」

小塚が指を鳴らすと、松田と榎本が速水の両腕をつかみ、倉庫のドアの前に連れていった。

松田がドアを開け、榎本が右腕をその中に入れる。

「ちょ、なにするんですか!」

速水は必死で抵抗する。

が、瞬間接着剤で貼り付けられたかのように体が動かない。

「やれ!」

小塚がゴーサインを出すと、榎本がドアを勢いよく閉める。

「やめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

速水の声はむなしく響き渡るだけだった。


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