(32)
2回表。岩崎は三者三振にきってとった。
しかし、いくらピッチングが良くても、向こうがさらにピッチングがいい。
2回裏。明北高校の攻撃は4番の藤田から。
速水は第一球を投げる。ストレートが内角に食い込む。
「ストライク!」
「かぁ~!やっぱりダメかぁ~!」
井川が叫ぶ。
「こりゃ、負けだ…」
北野もうなだれる。
「さ、帰る準備しよっと」
小宮がバッグに道具を詰め込んだ。
「いや、まだ2回裏だから。というかお前まだ打ってないだろ」
沢田がツッコミを入れる。
「どうせ打てないから」
小宮はそう言って、またバッグに道具を入れる。
「いや、だから早いって。人の話を聞けって」
沢田がそう言った時、
「チェンジ!」
と審判がコールした。と同時に、
「早っ!」
と小宮と沢田が叫んだ。
やれやれ。もう芸人じゃないか。
明はゆっくりと守備についた。
その後もお互いに点が取れずに試合は5回裏になった。
明北高校の攻撃は4番の藤田から。
「オイ!藤田!なにがなんでもバットに当てろぉ!それが無理なら体に当てろぉ!」
井川が激を飛ばす。
「お前、言ってることむちゃくちゃだぞ」
北野が冷静なツッコミを入れる。
速水は第1球を投げる。速水の球はここに来てさらにスピードを上げてきているように見えた。
「ストライク!」
藤田のバットが空を切る。
「あんさん、派手なのはスイングだけやな」
速水がからかう。これにカチンときたのか、
「なんだと…?じゃあ、派手なヤツかましてやるよ!」
と藤田が言い放った。
うちの高校にはプロレス好きが多いなぁ、と明は思った。
速水の第2球。外角低めのストレート。藤田のバットにがそれを叩く。
「ほう、なかなかやるやん」
速水が不敵な笑みを浮かべる。
「いいからさっさと投げろよ。お前の球を打ちたくてしょうがねぇからよ」
藤田が素振りをする。
「んじゃ、お言葉に甘えまして」
速水は第3球を投げた。
内角のストレート。
もらった。
藤田はフルスイングした。
すると、ボールは外側に曲がり、ミットにおさまった。
「ストライク!バッターアウト!」
スライダーか。
藤田は唖然としている。
「い、今のスライダーか?」
北野が目を丸くしている。
「一瞬ストレートかと思ったよ。まさかストレートと同じ速さで曲がるなんて」
井川も信じられないといった顔つきだ。
速水の球はただでさえ速い。当ててファールにするのがやっとだ。
それと同じ速さで曲がるスライダー。一瞬ストレートとは見分けがつきにくく、知らずに空振りしてしまう。
明は頭がクラクラしてきた。
「やっぱ俺、帰るわ」
小宮が道具をバックに詰め込む。
「いや、だから帰るなって」
沢田が引き止める。
俺も帰ろうかな。
明は自分のバックを見つめた。




