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1回裏。今度は明北高校の攻撃だ。

速水は投球練習をしている。

130キロはあろう球が、バンバンミットにおさまっている。

「やっぱり速いな」

井川が呟く。

「めちゃくちゃ速えーよ。プロみたいだ」

北野も目を丸くする。

「でもさ、守備がザルだから転がしゃなんとかなるだろ」

臼田が言う。

「そうか。ピッチャーさえ攻略すればイケるな!」

「よし、やってやるぜ!」

「逆転、逆転!」

作戦が決まったらしく、選手たちは素振りを開始し始めた。

だが、明はそんな余裕もなく、ただ速水の投球を観察していた。

速いな。打てないな、こりゃ。

今さらながら手ごわい相手と当たっちゃった、と実感する明なのだった。





「プレイ!」

審判の声と同時に、井川がバットを構える。

「井川、転がせー!」

明北ベンチから声が飛ぶ。

「その前に当てられるかやな」

速水はそう言って、第一球を投げた。

コースをついた速球。

スバン!と音をたててミットに吸い込まれていった。

「ストライク!」

審判が手をあげる。

明は目を丸くした。

練習で速水の投球を見て、速いなぁとは思っていたのだが、今投げた球はそれよりももっと速く見えた。

二球目、三球目と井川は空振りし、一死。

「まいったな。手元で相当伸びてるぞ」

井川が悔しさを抑えながら言う。

続く北野も三振。

ボールにかすりもしない。

「うぁ~、速いじゃねぇかよぉ~」

北野が悔しがる。北野は感情を表に出すタイプのようだ。

「それだけじゃねぇ。キレもハンパねぇ」

大村が神妙な顔で言った。

岩崎が打席に立つ。

「さて、早いとこ終わらせよか」

速水はそう言うと、第一級を投げた。

バシッとミットにボールがおさまる。

岩崎も手も足も出なかった。

「ちくしょう、どうやって打ちゃいいんだよ」

岩崎が露骨に悔しがった。

「いくら守備がザルでも、打てないんじゃ話にならねぇよ」

井川がうなだれた。

明はマズイと思った。

金橋高校は決して守備は良くない。

だから転がせばチャンスはあるのだが、相手はあの速水である。

速いストレートと変化球で金橋高校野球部を好成績に導き、「平成の奪三振王」の異名までつけられる名選手だ。

こりゃ絶望的だ…。

明は気が滅入ってしまった。

先輩でさえ打てないのに、1年の自分が打てる訳がない。

悔しいが、2回戦突破は無理だな。

明は家に帰りたくなった。

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