(3)
「ただいまー」
「お帰りなさい、明」
母の良子が出迎えてくれる。
「明、試合負けちゃったんだって?残念ねぇ」
「ううん、仕方ないよ。俺たち一生懸命頑張ったし、悔いはないよ」
明は母に精一杯強がって見せた。
「じゃあお母さん、すぐご飯の支度するわね」
「やだなぁ母さん、今日は7時から慰労会があるって言っただろ。もう忘れたの?」
「アハハ、そうだった」
母が笑いながら言った。
明はゆっくり居間に向かった。セカンドバックを脇に置く。
「おー、明、お疲れ様。お前負けたんだってな」
テレビを見ていた父の欽一が母と同じことを言った。そういえば父も昔は高校球児だった。
「うん、残念だったよ」
さっきと同じ返事をするのがめんどくさかった明は、そう答えた。
「へえ、お兄ちゃん毎晩遅くまで練習してたのにね」
妹の光莉がぼそっと言った。
「頑張ったって報われないんじゃしょうがないよ」
明は笑いながら台所で水をコップに注ぎ、飲み干した。
「じゃあ、行ってくるね」
「いってらっしゃい」
「気をつけろよ」
「お兄ちゃんいってらっしゃい」
母と父と妹がそれぞれ別の言葉をかけた。それを背にしながら、明は公園に向かう。
公園までの道を歩きながら、明はふと思った。
俺はこの三年間、何をしてきたんだろう――。
球拾いから始まり、二年の時にレギュラーになって、そしてーー。
色々なことが頭の中を駆け巡る。野球部としての三年間の思い出が明の頭の中に蘇ってきた。
ーー何もしなかったなぁ。
いや、でもしょうがない。
明は公園への道を急いだ。
すると、突然激しい頭痛が明を襲った。
「うっ…、ああっ…」
今まで感じたことのない痛みだった。誰かに頭を叩かれているようなズキズキとした痛みだった。
「うっ…、痛…」
なかなか収まらない。それに、意識ももうろうとしてきた。
明はその場にぱったり倒れ込んだ。




