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次の日の放課後。明達明北高校野球部は練習をしていた。
キャッチボールやトスバッティング、盗塁練習やノックなどで、ひとしきり汗を流した。
前の試合で負傷した楢崎は、ランニングなどの軽いメニューをこなしていた。「よし!みんな集合!」
練習終わりに森先生が集合をかける。
選手ははい、と返事をして森先生のところに輪を作って集まった。
「今日は明後日に迫った2回戦のことについてだ。」
森先生の言葉に選手の顔に緊張が走る。
「みんなも知っている通り、楢崎は1回戦で肩をケガしてしまって、とてもじゃないが投げられない。だから、次の試合は岩崎に投げてもらう」
「まぁ、しょうがないっすね」
岩崎が気のない返事をした。
岩崎は普段はサードを守っているが、ストッパーでもある。
楢崎ほどスピードはないが、数多くの変化球を投げられる。
「だから、サードが空いちゃうんだよな。そこで…」
森先生が間を空ける。
「明にサードをやってもらおうと思ってな」
森先生が明に向かって言うと、選手が一斉に明の方に向いた。
「えっ?」
明は思わず大声を出した。
無理もない。1年生の自分が大会に出るのだ。
「すごいな明。頑張れよ!」
長瀬が満面の笑みで明にエールを送っている。
「明くんスゴい!」
美穂も満面の笑みで祝福している。
その2人の声につられるかのように、周りからも拍手が沸き起こった。
ちょっと待て。これはおかしい。
明は今起こっている状況を整理することにした。
明北高校のエース楢崎は、前の試合で負傷し登板できない状態だ。
その代わりに川崎が投げ、勝利。
大会規定では同じ投手の連投は禁じられているから、次はサードでストッパーの岩崎が投げる。
すると、サードが空くので同じサードをやっている明が選ばれた。
いや、おかしい。
確かに明はサードをやってはいるが、地方大会という大事な大会で1年がスタメンというのはあまりにも大博打すぎる。
いくら未来が変わったとはいえ、これは無謀すぎる。
断るしかないな。明は意を決して、森先生に、
「あの…、いくらなんでも僕は1年ですし…、荷が重すぎます…。」
と控えめに断った。
だが、森先生は、
「俺は明にやってほしいんだ」
と言い放った。
「いや、でも…」
と明が口ごもると、
「これからお前はチームを引っ張っていく存在になっていくんだぞ。だから今のうちに経験を積んでおくのも悪くないと思うけどな」
と森先生が拍車をかける。
明は少し間を開けてから、
「そこまで言うんだったら、やらせてください」
と了承した。
「よし!じゃあ今から猛特訓だ!」
森先生が叫ぶと、ナインからは頑張れよ、とか頼んだぞ、といったような声が飛び交った。
大変なことを引き受けちゃったなぁ。
明は今更ながら後悔した。