(24)
9回裏。これを押さえれば勝てる。
明は祈った。
川崎は一番の倉田に投げる。
倉田は手も足も出ずに、三振。
続く石田も三振。
よし、あと1人。
明がそう思った時、
「タイム!」
と江南の監督が叫んだ。
代打を送るようだ。しかし、その代打は…。
「江南高校の代打のお知らせをします。久保田君に変わりまして、山岡君」
アナウンスが山岡の名を告げた。
まさか。山岡が代打で出るなんて。
明は目を丸くしていた。
だが、山岡も目を丸くしていた。
「か、監督、なぜ僕なんですか?」
山岡がおそるおそる聞いた。
すると、監督は口を開いた。
「お前は今までチームを引っ張ってきた。そんなお前があんな調子じゃつまらんだろ?」
山岡はハッとした。
「だったら、自分のバットで晴らしてこい。お前はここのエースなんだからな。なぁに、打てなくたっていい。最高のバッティングをして帰ってこい」
監督の言葉に山岡は静かにうなずき、バッターボックスに向かった。
「プレイ!」
山岡はバットを構えた。
山岡は江南高校のエースとしてチームを引っ張ってきた。
そんなに強くなく、予選大会では一回戦に勝てばいい方だった江南高校が、山岡のおかげで変わったのだ。
山岡はいつしかチームの支柱的存在になり、チームを引っ張る存在になっていた。
そして今年、初めて地区大会を突破し地方大会に駒を進めた。
負けられない。
山岡はバットのグリップを握りしめた。
川崎が第1球を投げる。
内角低めのストレート。
それを山岡が全力でスイング。
が、バットは空を切った。
川崎は第2球を投げる。
キレのあるカーブ。
山岡のバットがそれを捕らえた。
打球はレフトに飛んでいく。
が、わずかに切れてファール。
「す、すげぇ…。こんなに熱い山岡は初めてだ…。」
高崎が目を丸くする。
山岡の闘志は、味方のベンチからも感じ取れるほどだった。
川崎は第3球を投げる。
山岡はフルスイング。
バットが快音を響かせた。
打球はライトに飛んだ。
「よし!」
山岡はガッツポーズをした。
が、その打球は沢田のグローブに吸い込まれた。
「ゲームセット!」
審判が叫んだ。
勝った。明は思わずガッツポーズをした。
「おい、明。お前試合に出てないだろ」
隣の長瀬が笑いながら言った。
でも、嬉しい。
ベンチで喜びを分かち合う明北高校の選手を見ながら、明は微笑んだ。
「すいません…」
山岡は江南高校の監督やベンチに頭を下げた。
「気にするな。お前は当たり前のことをしたまでだ」
監督が言った。
すると、石田が山岡に近づいて、
「翔梧…、ごめんな…。チームをずっと引っ張ってきたのは翔梧なのに…。」
と謝った。
山岡はゆっくりと石田を見て、
「いいよ、もう済んだことだし」
と言った。
石田の顔に笑顔が戻った。
「よし!今日は大反省会だ!」
と監督が言うと、
「はい!」
と選手が返事をした。
あのチームはこれからもっと強くなるな。
明は横目で見ながらそう思った。