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9回裏。これを押さえれば勝てる。

明は祈った。

川崎は一番の倉田に投げる。

倉田は手も足も出ずに、三振。

続く石田も三振。

よし、あと1人。

明がそう思った時、

「タイム!」

と江南の監督が叫んだ。

代打を送るようだ。しかし、その代打は…。

「江南高校の代打のお知らせをします。久保田君に変わりまして、山岡君」

アナウンスが山岡の名を告げた。

まさか。山岡が代打で出るなんて。

明は目を丸くしていた。

だが、山岡も目を丸くしていた。

「か、監督、なぜ僕なんですか?」

山岡がおそるおそる聞いた。

すると、監督は口を開いた。

「お前は今までチームを引っ張ってきた。そんなお前があんな調子じゃつまらんだろ?」

山岡はハッとした。

「だったら、自分のバットで晴らしてこい。お前はここのエースなんだからな。なぁに、打てなくたっていい。最高のバッティングをして帰ってこい」

監督の言葉に山岡は静かにうなずき、バッターボックスに向かった。

「プレイ!」

山岡はバットを構えた。







山岡は江南高校のエースとしてチームを引っ張ってきた。

そんなに強くなく、予選大会では一回戦に勝てばいい方だった江南高校が、山岡のおかげで変わったのだ。

山岡はいつしかチームの支柱的存在になり、チームを引っ張る存在になっていた。

そして今年、初めて地区大会を突破し地方大会に駒を進めた。





負けられない。

山岡はバットのグリップを握りしめた。





川崎が第1球を投げる。

内角低めのストレート。

それを山岡が全力でスイング。

が、バットは空を切った。

川崎は第2球を投げる。

キレのあるカーブ。

山岡のバットがそれを捕らえた。

打球はレフトに飛んでいく。

が、わずかに切れてファール。





「す、すげぇ…。こんなに熱い山岡は初めてだ…。」

高崎が目を丸くする。

山岡の闘志は、味方のベンチからも感じ取れるほどだった。

川崎は第3球を投げる。

山岡はフルスイング。

バットが快音を響かせた。

打球はライトに飛んだ。

「よし!」

山岡はガッツポーズをした。

が、その打球は沢田のグローブに吸い込まれた。




「ゲームセット!」

審判が叫んだ。

勝った。明は思わずガッツポーズをした。

「おい、明。お前試合に出てないだろ」

隣の長瀬が笑いながら言った。

でも、嬉しい。

ベンチで喜びを分かち合う明北高校の選手を見ながら、明は微笑んだ。





「すいません…」

山岡は江南高校の監督やベンチに頭を下げた。

「気にするな。お前は当たり前のことをしたまでだ」

監督が言った。

すると、石田が山岡に近づいて、

「翔梧…、ごめんな…。チームをずっと引っ張ってきたのは翔梧なのに…。」

と謝った。

山岡はゆっくりと石田を見て、

「いいよ、もう済んだことだし」

と言った。

石田の顔に笑顔が戻った。

「よし!今日は大反省会だ!」

と監督が言うと、

「はい!」

と選手が返事をした。




あのチームはこれからもっと強くなるな。

明は横目で見ながらそう思った。

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