(23)
「山岡、やめろ!」
周りが止めるのも聞かず、山岡は石田に食ってかかった。
「お前に俺の何がわかる!」
山岡は観客席に聞こえるような大声で怒鳴った。
「俺は、毎日血が滲むような努力をして、やっと江南のエースになったんだ!それを知らないお前が簡単に先発ならよかった、とか言うな!」
石田はただあっけにとられていた。
「や、山岡…、わ、悪かったよ…。お、お前のおかげでここまでこれたんだもんな…。」
石田がやっと絞り出すように声を出した。
と同時に山岡は石田の左頬を殴った。
かなり音がした。
石田はその場でひざまついた。
監督が駆け寄り、
「山岡ァ!なぜ殴ったんだ!」
と山岡を問い詰めた。
「監督、俺は江南のエースとしてずっと頑張ってきたんですよ。それを石田が…」
山岡がしゃべり切るのと同時に監督が言った。
「だからといって殴ってもイイということではないだろう。野球はチームプレーだ。ピッチャーがいくら速い球を投げたって、キャッチャーがいなきゃ三振を取れないし、野手がいなきゃ全ての打球がヒットになってしまう。お前一人じゃあ野球なんてできないんだぞ」
監督の言葉に山岡はハッとして、
「す、すみませんでした…」
と頭を下げた。
「もうイイ。お前はゆっくり休んでいろ」
監督が促すと山岡はベンチに座った。
明はその光景をじっと見ていた。
思い出すのは、3年の夏。
明はレギュラーだったものの、なかなか思うような結果が出せず、後輩にレギュラーの座を明け渡されてしまった。
あの時の光景が明の脳裏に焼きついた。
試合はその後両校ともランナーを出せず、ついに9回裏へ。
5-4。明北高校のリードまま、江南の攻撃。
これさえ守れば勝てるーー。
明は祈るしかなかった。