表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/90

(22)

「ちょ、ちょっと待ってください!」

山岡は声を張り上げた。

「どうした?何か問題でもあるのか?」

監督は山岡の顔を覗きこむようにして言った。

「お願いです…。交代させないで下さい…。俺は…、江南高校の…エースなんです…」

山岡は声を絞り出すようにしていった。

「そのエースがバガスカ打たれているんだろ。だから交代するって言ってるんだ」

監督は毅然とした態度で言った。

「お前一人がこうして頑張っている訳じゃないんだぞ。みんな毎日汗水垂らして練習に打ち込んで、予選を勝ち抜いてここにいるんだぞ。それをお前一人のわがままに付き合っていたら、全てが水の泡だ」

「で、でも…」

山岡が言葉を発するのと同時に監督が怒鳴った。

「山岡!いい加減にしろ!これから大会で何試合も戦っていかなくちゃいけないんだ。そうなればお前一人で投げる訳にはいかないんだ。お前のためを思っての交代なんだぞ」

山岡はその場に座り込んだ。

「後はベンチで応援でもしていろ」

監督が促すと、山岡は力なくベンチに戻っていった。

「ピッチャー交代!山岡に変わり、石田!」

監督は山岡に目もくれず審判に交代を告げ、ベンチに戻った。

野手も山岡に目もくれず、それぞれの守備についた。

明は山岡の方をじっと見る。

山岡はまるで脱け殻のようにうなだれ、動かない。

さっきまで投げていたとは思えない。





「石田、頼むぞ。」

キャッチャーが江南の2番手の石田裕一(ゆういち)に話しかける。

「大丈夫っしょ。1点差ぐらいなんとかなるってぇ〜。」

石田があっけらかんと言った。

石田は若干軽率な所があった。良く言えばフレンドリー、悪く言えばチャラい。そういう人間だった。

「ま、翔梧(山岡)があんなに打たれたんじゃしゃあないでしょ。俺が軽く抑えますわ」

石田が笑いながら言った。





「プレイ!」

審判が叫ぶ。

バッターボックスの井川に向けて、石田が投げる。

速い。

明は目を丸くした。

ミットにボールがおさまる音がした。

「ストライク!」

審判が手を突き上げる。

速い。

明はもとより、ベンチも呆気にとられていた。

井川は手も足も出ず、三振。

「あぁ、チェンジか」

北野が情けない声を出した。

「でも、逆転だぜ。守りきれば勝つよ」

岩崎が言った。しかし、あまりにも速い。

ストレートだけなら、山岡より速いのではないか。

明がふと江南ベンチに目を向けると、石田が山岡に話しかけていた。

「翔梧~。俺、簡単に三振とったぜ。すげぇだろ~。」

石田の軽率な挑発にも、山岡はうなだれたままだ。

「いや~、しかしまぁ、江南のエースだっつっても一度崩れたらおしまいなんだなぁ。これなら俺が先発だったらよかったなぁ」

と石田が言った。

次の瞬間山岡は立ち上がり、石田の胸ぐらを掴んだ。

まずい。

江南ベンチに緊張が走った。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ