(2)
「じゃあ、三年生は今日で引退だな。お疲れ様」
明北高校の野球部の部室で森先生の声が響く。
「あ、俺たち引退なんだ」
明はふと思った。
「なぁなぁ、慰労会行くよな?」
隣のチームメイトの長瀬忠之が明に耳打ちしてきた。
長瀬は明とは家が隣同士で小学校からの付き合いだ。明が野球を始めたのも長瀬に誘われたからである。
「うん、もちろん行くよ」
明は長瀬に向かって頷いた。
「明くん、一緒に行こう。長瀬くんも一緒に」
長瀬の向かい側の黒田美穂が身を乗り出すように行った。
美穂は明の幼なじみで、ルックスもよく、スタイルもいい、性格もいいというまさにマドンナと言うべき女子だ。おまけに野球部のマネージャーをしている。
「うん、そうしようか」「決まりだね。じゃあ公園でいいよね?」
「うん」
明と長瀬は深く頷いた。
「あ~あ、俺たちはもう引退かぁ。もちっといたかったなぁ」
帰り道、長瀬がため息混じりに呟いた。
「でも、長瀬くんも明くんも頑張ったわよ。例え結果が出なくでも努力は嘘つかないよ」
美穂がにこやかな笑顔で言った。
「でも、俺大事な場面で三振しちゃったし…」
明がうつむき加減で呟いた。
「も~、明くん暗いよ~。男なんだからいつまでもウジウジしない!元気出して!」
美穂が明の背中をポーンと叩いた。明がよろける。
「ちょっと美穂、強すぎ」
「アハハ、ゴメン」
美穂の明るい声が響く。
「じゃあな」
「うん、また後で」
美穂と別れた明と長瀬は、二人並んで歩き出した。
「…なぁ、明」
「何?」
「あんま、気にすんなよ」
「…」
多分長瀬は自分が三振したから責任を感じているんだろう、と明は悟った。
「別に気にしてなんかいないよ。考えすぎ」
「そうか…」
長瀬は納得したが、なぜか腑に落ちない感じだった。
やがて、二人は自宅に着いた。
「じゃ、また後で」
「うん」
二人はそれぞれの家に着いた。