(16)
ボールは高く上がり、スタンドに向け伸びていく。
明は確信した。
――ホームランだ――。
川崎はただじっと、スタンドを見ている。
打球はスタンドの手前で失速し、地面に落ちた。
ツーベース。
川崎は大きく息をついた。
明はホッと一息ついた。
最悪の事態は免れたようだ。
しかしーーー。
今のツーベースで高崎が帰って、2-1。
しかも、ノーアウト二、三塁。
逆転されてしまう。
「タイム!」
大村が叫んだ。野手が一斉に川崎のいるマウンドに集まった。
「まずいことになったな。楢崎がいないから、この状況を乗り切る策が思い付かねぇよ」
ショートの北野がため息混じりに言った。
「北野さん、そんなことは言わないで下さい」
大村がたしなめる。
「でも、どうすんだよ?次ヒット打たれたら最悪逆転されちゃうぜ?」
センターの井川が言った。
「すいません…。僕のせいで…」
川崎がうなだれるように言った。
川崎は明と同学年。この時は一年生ながら球のキレがあるということで、実戦も近いと噂されていた。
それがこんな形でデビューとは…。
明は川崎を見守るしかなかった。
「とにかく確実に抑えていこう。それしかないだろ」
サードの岩崎が言うと、野手もうなずき、それぞれの場所に戻った。
川崎、押さえてくれ。
明は手を合わせた。
川崎は静かに大きく息を吐いた。