(14)
楢崎は抱え込まれる形でベンチに戻っていった。その姿が衝撃を物語っていた。
「楢崎、大丈夫か?」
森先生が楢崎を心配する。
「…あ…、い…痛い…」
楢崎は途切れ途切れにそう言った。
「これはもう投げられないな。代わりを出すしかないか。おい、アイシングしろ」
森先生がそう言うと、美穂がはい、と言ってバッグを取り出した。
…まずいことになった。明はそう思った。楢崎はとても投げられるような状態じゃない。楢崎の代わりに誰が投げるのか。
「おい川崎、ブルペンで肩作っとけ」
森先生が2年で控え投手の川崎に声を掛けた。
はい、と川崎は答えてブルペンに向かった。ヤバい。これはヤバい。明は危機を感じていた。
楢崎といえば、明北高校の絶対的エースだ。スライダーやカーブなど多彩な球種を持っていて、数々の三振の山を築いてきた。プロからのスカウトもあった噂も聞いた。
そのエースは今ベンチで右肩を押さえて小さくなっている。
時折美穂が濡らしたタオルを右肩に当てている。
果たして川崎に押さえられるだろうか。
「明北高校の守備の交代をお知らせします。ピッチャー楢崎君に代わりまして、川崎君」
アナウンスが場内に響き渡る。川崎がゆっくりマウンドに向かっていった。
押さえてくれ。明はマウンドの川崎をじっと見つめた。