(13)
5回裏。明稜高校は2-0でリードしていた。
楢崎はここまで1安打しか許さず、いいピッチングをしていた。
これは勝てる――。明はそう思っていた。
バッターは6番の高崎。確か対戦校である大船高校でも屈指の三割バッターだった。決してパワーがある訳ではなかったが、ヒットを確実に打てるチームの中心選手だ。
楢崎は第一球を投げた。ぐんぐん伸びるストレート。それを高崎のバットが叩く。
バチッ!
と大きな音がした。
なんだ?
明はグラウンドの方を見た。
視線の先には右肩を押さえてマウンドにうずくまっている楢崎がいた。
どうやら高崎の打球が楢崎の右肩を直撃したみたいだ。
「タイム!」
審判が叫ぶ。野手が一気にマウンドの楢崎の元に集まる。
「おい、楢崎大丈夫か…?」
キャッチャーの松田が声をかける。
「あ……もう……ダメかもしれない……」
楢崎が絞り出すように言った。
明はうずくまる楢崎を見て、
「やっぱりな」
と思った。
今の状況じゃ楢崎はとても投げられそうにない。
これは交代しかない。
しかし楢崎はチームのエースだ。抜ければかなり痛いし、仮に勝てたとしても次の試合の登板は難しいだろう。
明はただじっと楢崎を見ていた。