(12)
日差しが強くなってきた。まだ6月だというのに夏本番といった暑さだった。そういや今日は20℃ぐらいまで上がるって天気予報で言っていた。
明はタオルで汗を拭いながら、マウンドに目をやった。三年生でキャプテンの楢崎洋一が投球練習をしていた。
明は知っている。キャプテンはこの先肩を壊して、大会に出場できなくなるのを。
「プレイボール」
審判の掛け声を聞き、楢崎が第一球を投げた。
ぐんぐん伸びるストレート。
そのストレートがミットに収まる。
「ストライ―ク」
審判が右手を上げた。これならいけるな。
明は確信した。
二球目。今度は内角に食い込む鋭いカーブ。それを相手打者のバットが叩いた。
「ファール」
ぐんぐん伸びた球に左にきれていった。
危なかった。明はゾッとした。
カーブは楢崎の決め球の一つだった。それをいとも簡単に当てられた。
動揺している。明は楢崎の姿を見てそう思った。楢崎はプレッシャーに弱い選手だった。地区大会の時はそのプレッシャーに負け、相手に集中砲火を浴び、負けてしまった。
楢崎は一回乱れてしまうと、立て直すのに時間がかかる。
これでこの回先制点を許してしまうような事があれば必ず制球が乱れるに違いない。
何とか持ちこたえてくれ。
楢崎が第3球を投げた。グングン伸びるストレート。打者がバットをしならせる。
バットの「ブオーン」という音と、ミットにボールが収まる音がグラウンドに響く。
「ストライ--クバッターアウッ」
審判が高々と右手を上げた。楢崎が小さくガッツポーズをする。
楢崎は続く二人も三振にきってみせた。
大丈夫だな。明はベンチに戻っていく楢崎を見ながら思った。