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「ストライク!ゲームセット!」
審判の大きな声が球場全体に響いた。
芹沢明は、何が起こったか全くわからなかった。
周りをゆっくり見渡すと、チームメイトが肩を振るわせながら涙を拭っていた。
明はそこで、ああ、俺たちは負けたんだ。俺が三振して負けたんだ、と気づいた。
整列が終わり、ベンチに戻ると明はボールにも当たることなく一回転した自分のバットを見つめた。
「お前たちはよくやったよ。もう泣くなよ」
さっきから泣きっぱなしの部員達を顧問の森広宣先生が慰める。
「お前たちはここまでよく頑張ったよ。毎日の辛い練習だって弱音を吐かず頑張って来たじゃないか。なぁ?」
部員達は森先生の話など聞いてないかのように泣いている。
明はその中で泣かずにいた。いや、泣けなかった。今さっき起きた出来事が信じられなかったからだ。