マフラー
「さむ……」
白い息がふわっと広がり、瞬く間に消えていく。
寒いよね。
君が冬を好きじゃないことくらい知ってるよ。だって口癖のようにそう言うから。
でも、僕のことは好きでいてくれるといいな。
寒くても雪が降れば喜ぶみたいに、僕と会うことは喜んでくれたらいいな。
「寒すぎ。早く春にならないかなあ」
君はそう言って空を見上げる。そして雲のない寒々とした青い空を見て、また、そう言う。
僕は冬が大好きだよ。君と同じくらい。
だってさ、冬は君と会えるんだもの。冬しか会えないんだもの。
僕はずっとずっと冬を待ち望んでるし、ずっとずっと冬が終わってほしくないって思ってる。
……君と反対だね。
冬なら、君のそばにいられる。
どこに出掛けるときも一緒。誰よりも近くで、同じ景色を見られる。
ぎゅっとしたいなあ。けど、そんなことしたら、君が死んじゃうもんね。
だから優しく、君の首もとにいるんだ。僕は、マフラーだからさ。
もし、君に好きなひとが出来たとしても、二人ともちゃんと暖めてあげる。
そりゃ、嫉妬もするし、君に好きなひとが出来るなんて嫌だけどさ。
安心して。僕の仕事は君を暖めることだから。
そのひとを暖めることで君の心も暖まるなら、それはそれでいいんじゃないかな、って思うんだ。
むしろ、そのときこそ、ぎゅっとしてやる。僕の大事な大事な君を傷つけたら許さないぞって、そのひとに伝わるように。
苦しい苦しい、なんてじゃれあうくらいに二人ともまとめてぎゅっとしてあげる。
そしたらほら、二人の距離も縮まるでしょ?
いいんだ、僕にはセットのミトンちゃんたちがいるから。
両手に花だよ、素晴らしいじゃない。同じ柄だけどね。
もうすぐすれば、春が来る。そしたら、僕は押し入れの奥でまた眠る。
次に君と会うときは来年の冬。そのときには君の隣に素敵な彼がいたりするのかな。
春、夏、秋。僕が見ていない間も、君が笑顔で過ごせますように。
未来の彼氏さん、僕の大好きな彼女のこと、よろしくね。
それじゃあ、また来年。元気でね。