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Lovestory in Railways

三日月〜恋の終わりに

作者: 秋葉隆介

 あたしは今、叶わない恋をしてるの。

 その相手は同級生。背が高くて笑顔が素敵な男の子。その人の姿を視界に捉えた瞬間、あたしは恋に落ちたの。

 でも、あたしの想いは彼には届かない。絶対に届かないとわかってるのに…… どうして諦められないのかな。

 苦しいよ……




 あたしは 水原ゆかり。現在高校2年生。一応成績はいい方みたいで、選抜クラスに所属してる。

 あたしが好きな人は、同じクラスの 秋葉隆介あきば りゅうすけ君。彼は本当に頭が良くって、格好良くって、優しくて…… そして何よりあの素敵な笑顔に、いつもあたしは癒されるの。

 あたしはいつも、彼のことを見てる。こんなに人を好きになったのは初めてのこと。でもね、この想いは絶対に叶わないの。どうしてかって? 彼が見ているのは、たった一人の女の子だけだから。

 その人の名は 池内小夜いけうち さよさん。やっぱり同じクラスで、女のあたしから見てもすごく可愛い人なの。

 才色兼備っていうのはこういう人を言うんだろうかって思うほど、綺麗で、成績も優秀で、性格も可愛らしくって、本当に非の打ち所がないような人なの。

 それにね、最近では彼女から「幸せオーラ」がたくさん出ていて、彼女がますます綺麗になったって専らの評判。それはきっと、彼が惜しみない「愛」を彼女に注いでいるからに違いないから。彼と彼女はいつも幸せそうに寄り添っていて、そんな二人を羨ましがる人がたくさんいるわ。あたしもその一人なんだけどね。

 いつも幸せそうに笑っている彼。そんな彼の姿を、そばで見ているだけでいいと思ってた。彼女と仲良くしてる姿を見せつけられ続けたら、きっといつか諦められると思ってた。


 でも…… それは無理だった。


 自分の理性以上に、抑えられない感情を宿している「あたし」に気づいてしまったの。人には言えない醜い感情が、自分の中でどんどん育って行くのが怖い。


 どうしたらいい?


 心の中のあたしに問いかけてみる。でもね、いつも答えは返ってこない。気持ちの整理がつけられないまま、あたしはずっと彼の姿を追っていたの。

 こんなあたしにも想いを寄せてくれる人がいて、その人とお付き合いすることで彼を忘れようともしたわ。その人はね、あたしが彼を好きなことを知ってて、それでもあたしと付き合って欲しいと言ったわ。でもね、彼があたしの心に棲みついている限り、他の人を好きになることは絶対に出来ないから、その人とはちゃんとしたお付き合いをすることが出来なかったの。それでね、そのことがあたしの彼への想いを再確認することになっちゃって、恋しい気持ちがますます燃え上がる結果になったの。

 その笑顔を、少しでいいから、あたしに向けて欲しい。そんな小さな願いすら叶えられないもどかしさに、あたしは押しつぶされそうになっているの。

 あたしのこの想いを、彼に伝えないまま諦めるなんて…… 出来るわけがない! あたしは決心したわ。彼に告白する。結果がわかり切ったものだとしても。それが、一晩寝ずに考えて出した、あたしの結論。




 その日の夕方、駅のホームで彼を待つことにしたわ。あたしが通学で使う電車は彼と同じ路線だから、ここで待ってたら彼が現れることはわかってるの。彼女が休んでいる隙に、彼に告白しようとしてることが、少し後ろめたく感じたけど、もうなりふり構ってなんかいられなかった。そこまであたしは、自分を追いつめてしまったの。

 ホームのベンチに座って、彼が現れるのを待った。時間はまだ5時。運動部の彼は、暗くなる頃じゃないとここには来ないこともわかってる。ベンチに座り込んでいるあたしを見て、具合でも悪いのかと声をかけてくれる友達もいたけど、あたしは「何でもない」と答えて、彼女達に先に帰るように言ったわ。こういうことは、なるべく友達の前ではしたくないことだからね。

 彼を待つ間読んでいた小説に飽きてふと空を見上げたら、夕映えの空に白い三日月が浮かんでいたの。まだまだ明るさの残る空に、ひどく頼りない月が浮かんでいるのを見て、あたしはまるで自分の気持ちみたいだと、思わずおかしくなってしまったの。目が離せなくなったあたしは、ホームに佇んだままずっと月を見つめていたの。

 その月が山の稜線近くまで傾き、はっきりと光を放ち始めた頃、彼がホームに現れた。真っすぐに彼を見ているあたしに、彼は少し驚いた様子だったけど、あたしに近寄ってきて、声をかけてくれたわ。

「ゆかりさん」

 少し大人びて見えるらしいあたしは、クラスのみんなにそう呼ばれているの。でもね、あたしはその呼ばれ方が、他人行儀に聞こえてあまり好きじゃなかった。特に彼には……

「どうしたの? こんなところで」

 そういって優しい笑顔を向けてくれる彼。でも彼女に向ける「笑顔」とは全く違うことに、あたしは気づいていたわ。だけど、ここでがっかりしてる場合じゃないの。

「リュウスケ君、ちょっと話出来るかな?」

 何だろう? って顔になった彼は少し考えてたけど、仲間達に「先に行って」と伝えて、あたしをホームのベンチに座らせると、自分も少し離れたところに腰掛けたわ。

「話って、何?」

 柔らかな表情であたしに問いかける彼。緊張で言葉が出ないあたしを、覗き込むように見てはいるけど、あたしが口を開くのを黙って待ってくれてる彼は、本当に優しい人だと思う。いつまでもそうしてる訳にいかないから、あたしは思い切って話し始めたの。

「あたしの言うこと、驚かないで聞いてね?」

「何だよ、あらたまって」

「いいから! ちゃんと聞いてくれるって、約束して?」

 彼は優しい表情を崩さないまま応えてくれた。

「わかった」

 

 いよいよだ……!


「あたしね……」

 黙って聞いている彼が怖い。でも言わなきゃいけないんだ。


 「あなたが、好きです」


 ああ、言っちゃった…… 彼もすごく驚いた顔してるわ。そのまま固まってしまったような彼の顔から、あたしも目を離すことが出来ない。他の人には、きっと見つめ合ってるように見えたんだろうな。

 放心から解かれた彼が、ようやく口を開く。

「ああ、びっくりしたぁ」

 そう言って優しい表情に戻った彼。でもその顔は、すぐに真剣なものに変わったの。

「ゆかりさん……」

 彼はひと呼吸置いて、私をじっと見たわ。


 「ごめんなさい」

 

 彼の口から発せられたのは、わかってたけど一番聞きたくない言葉だった。立ち上がってあたしに深々と頭を下げている彼に、申し訳ない気持ちもあったんだけど、あたしの心の中は、言い知れない悲しみで満たされてたの。

 頭を上げてもう一度あたしの横に座り直した彼は、あたしにその続きを話し始めたわ。

「僕には付き合ってる人がいるんだ。僕は今、いやこれからもきっと、その人のことしか考えられないから、ゆかりさんの気持ちに応えることは出来ない」

「いいの」

「え?」

「あたしがリュウスケ君を勝手に好きになって、勝手に告白しちゃっただけだから」

「そりゃまあ、そうだけど……」

「傍から見てても、リュウスケ君達が『愛し合ってる』ことはわかるから。だからね、フラれることは覚悟してた」

「ごめん……」

「もういいから、謝らないで。あたしがもっと辛くなっちゃうから」

「でも、ごめん」

「電車が出ちゃうから、早く行った方がいいよ」

 もう彼と一緒にいることが耐えられなくなってたあたしは、そう言って彼をここから離れさせようとしたの。

「ゆかりさんは?」

 あたしを気遣う優しい彼。でもその優しさは今のあたしには心を切り刻む凶器でしかなかった。

「あたしは少し頭を冷やしてから行くよ。先に帰って」

「わかった。気をつけて帰ってね」

 そう言うと彼は立ち上がり、心配そうな表情を残して電車に乗り込んだの。




 発車のベルが鳴り響き、電車のドアが閉まる。

 高い警笛音を残して彼を乗せた電車が走り去ると、あたしの目から涙が溢れ出したの。

 そのままあたしは、ホームのベンチで涙を流し続けた。でもさすがに恥ずかしくなって、涙を止めようと思って空を見上げたら、今にも山の影に隠れてしまいそうな、さっきの三日月が目に入ったの。

 不完全な形の三日月を見て、あたしはまた涙が溢れた。あたしの満たされない想いが、形になってるような気がして悲しくなったの。

 あたしの恋は終わってしまった。

 でもちゃんとエンドマークをつけられたことは良かったんじゃないかな。そう考えたら少し気持ちが軽くなって、いつまでも涙を流してることがバカらしくなったんだ。

 あたしはハンカチを取り出して、子供みたいにごしごし顔を拭いたの。そうしたらとてもすっきりした気分になって、電車を待つために立ち上がった。


 三日月は三日月のまんまじゃないから。きっとあたしも「満月」になれる日が来る! そう信じたい。だから……


 サヨナラ…… 大好きな「あなた」。

 


Railwaysシリーズ、第4弾をお贈りします。


第4弾は「ヒトメボレ」からのスピンアウト。片思い女子の切ない感情を描いてみました。

女性目線での描写はやっぱり難しいですねぇ……それをさらさらと書いてのける、男性作家先達の方々の凄さを、改めて思い知らされました。

もっともっと精進して、皆様に「おおっ! これは切ない!」と思ってもらえる作品を書いてみたいと思っています。

引き続きご指導ご鞭撻の程を、よろしくお願い申し上げます。

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