4-1
目の前に何があるのか、判別するのに苦労するほどの光源でしかなかった。
そんな窓から見える景色を晃人はただ眺めていた。
眺めていたが、それが脳まで情報が送られているかと言われれば、否だった。
何もかも抜けてしまったかのようだった。
晃人の体はすでに、もぬけの殻だった。
正直、葵のことなど晃人にはどうでも良くなっていた。
薄々わかっていたのだ。
自分が本当は飛べないことを。
今まで、ごり押しで世界の理に抗いながら前へと進んできたのだ。
しかし、それはやはり無理な話であったのだ。
葵の言ったとおり、世界相手では不可能なことがたくさんある。そのうちの一つに過ぎなかっただけのことだ。
なぜ、翼など持つことができたのだろうか。
自分の翼などただの飾りだったのだろうか。
そんなはずはない――そう思う気力はとっくに消え失せていた。
どうせ、飛ぶための体ではない。
重力に縛られた体なのだから。
奥深く、空にあるモノを掴むことはできないのだ。
「晃人、学校はどうだ?」
「……」
無視するつもりは晃人にはなかった。だが、振り返ってみても思い出すのは、屋上での桜花に告げられた言葉だけだった。だから、晃人は剣に何か言葉にして返そうとしたのだが、不満な顔で返事することとなってしまう。
「まぁ、始まったばかりだからな。これからだぞ」
そう励ましてくれるのはありがたいのだが、晃人は小声で呟く。
「……明日には世界が終わるかもしれないのに……」
早人を見つけるために、今日一日葵と二人で頑張ると約束したのに、葵はそれを破った。いや、それは自分もかもしれない。晃人が街中を走り回っている間に、葵は自分一人で探していたのかもしれないのだから、そうなると、申し訳ない。
だが、もう世界のことなんてどうでも良かった。
翼がなければ――自分ではないのだ。
手の届かないものを望んでも、意味はないのだ。
明日で世界が終わる。
それまでに届くことなど不可能だ。
だから、世界などなくなればいいのだ。
いつの間にか、病院に到着し、剣は駐車場に車を停めていた。
そんな時、剣はぼそっと言葉を吐く。
「明日が来ないかもしれないなら、精一杯に生きろよ」
「……」
そう言うと、剣は病院へと向かう。
精一杯に生きろと言われても、何に一生懸命になればいいのだろうか。
しかし、そんなふと思ったことなど、晃人はすぐに頭から捨て去り、剣の後を追った。