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晃人が入学した高校は県でもある程度有名な進学校であった。そのためか、入学式の次の日には試験が待ち構えていた。
そんなことを事前に言われていたことだったが、何の対策もしていなかった晃人には酷な話であった。見ても、読んでも、自分がいったいどう解けば答えが出てくるのか、わからないほどに頭がボケてしまっていた。
「すごい顔してるね」
隣の男子生徒からそう言われるほど、暗い顔をしていたらしい。晃人は名前の知らない生徒に「徹夜したから」と嘘を吐く。
「僕も人のことは言えないけどね」
そう言っておきながら彼は晃人とは違い、爽やかな笑みを浮かべる。
嫌味のない笑みのため、晃人は気安く話しかけることができた。
「そんなに頭良っくねぇのにこの高校に入って、なんか後悔してる」
「そうなんだ。僕もあんまりだから。お互い頑張ろう?」
「あぁ」
この生徒が晃人の友人一人目になるのはそう難しくはなかった。
だが、友人の前でも晃人はため息をついてしまう。
いや、友人の前で気を許したからなのか、ため息をついてしまったのかもしれない。
「でも、明日からちゃんと学校に来れるか、わからないんだよね、僕たち」
「うん?」
「あれ? 先生の話聞いてなかった?」
先生の話など意識しなければ耳に入ってくることはない。だから晃人は話など聞いておらず、友人に教えてもらう。
「昨日さ、この辺にもUFO出たでしょ」
「UFO?」
「……? 君ってテレビとか見ないの? ニュース凄いことになってたけど」
昨日も今日の朝もテレビを見る暇などなかった。
UFOも大騒ぎするには丁度いいニュースだが、晃人の中ではそんなことよりも、世界が終わりを迎えるだとか、早人が戻ってくるだとか、葵の世話をしたりだとか、どこからしらでテレビでも見れたかもしれないが、とにかく、テレビを見る状態ではなかった。
「ほら、前々から地球侵略のために空に黒い円盤が世界中に浮かんでたでしょ。あれが日本の、それもこの辺に一気に六つも現れたんだよ。来るとき見えなかった?」
「それってどこだ?」
言われた地域は晃人が住んでいる街であった。
しかし、それなら見てないなんて有り得ない。
晃人は葵と一緒に空を飛んでいたのだ。
街を囲むように配置された未確認飛行物体をどれか一つでも見ていなくてはいけいない。だが、見ることはなかった。円盤は世界に散らばった他の円盤と同じように、黒く厚みのないものだということで、確認することができなかったという可能性もなくはない。
「ここからじゃあ見えないから、あとで外から自分の家の方でも見てみたら? よく見えたから」
「それはいいんだが、なんで明日学校に来れなくなるんだ?」
「この辺地域国が避難命令を出すかもしれないんだって。噂だと攻撃もするかもしれないんだって」
「そこまですんのか?」
「もしもの話。僕らにはわからないよ」
世界は動いている。
葵の話した世界の崩壊。それが明日起きることとなっている。
しかし、それとはまた違う世界の終わりが迫っているのだと、この友人の話だ。
なぜ、これほど一点に向けて事が重なるのだろうか。
世界を構成している一人のちっぽけな人間には、全てを悟ることは無理な話であった。