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 青い空。

 その中に女はいた。

 ゆっくりと降りる。

 そして、辺りには何もない、女にしか見えない境目にたどり着く。

 眼下に存在する世界を覗き込む。

 自分たちとは違った文化を持つモノたちが住む世界。

 それが広がっていた。

 広く、果てしなく。

 どこまでも続く大地。

 その圧倒的な景色にを眺めながら、女は惜しむ気持ちで目をつぶる。

 そして、代々伝えられてきた言葉を唱える。

「――」

 すると、女の真下で水滴が落ちたかのように波紋が広がる。

 それは永遠に途切れることなく。

 水平線の向こうまでそれは続く。

 そして――。

 女の真下に《穴》が開く。

 深い、暗い青だったのだが、そこから光が湧いてくる。

「ふぅ……」

 女は覚悟した。

 自分の使命を全うするということを。

 失敗を許されることはない。

 一発勝負。

 重圧に耐え切らねばならない。

 生まれた時から自分はこのために生まれてきたのだから。

 深呼吸する。

 もう戻ってくることは出来ないかもしれない。

 もしもの場合でなければ、ここに来ることもないだろう。

 だから、この世界の空気を味わった。

 透き通っていて、ほんのり甘い。

 いつも肺に満ちていたのだが、目の前の《穴》を通れば一瞬のうちに自分の体から抜けていってしまう。

 しかし、もう後戻りすることはできない。

 行かなければならない。

 肺に満たし、女は《穴》へと飛び込む。



 世界が反転する。



 真っ白な世界だった。

 すぐに青で染まった空を見ることができたが。

 噎せる。

 苦い。それが第一印象だった。

 皮膚がヒリヒリし、目もシバシバしてしまい、目を変えることができず女はその場で動けなくなってしまう。自分の身にいったい何が起きているのか、女にはわからなかった。

 だから、目の前に男がいることさえ、わからなかった。

「催涙ガスをばら撒いておいた。お前は少しの間それで苦しむ」

 声がしたので、女はそちらを見ようとするのだが、目が開けることができず、その男の顔を見ることは出来ない。

「何で……」

 女は咳き込みながらも、頭を動かしていた。

 自分の他にここにいられる人間がいるのだろうか。自分の後ろから付いて来てしまったなど有り得ない。なら、目の前の男はある一つの可能性しかなかった。

「うっ――」

 声がうまく出せない。喉が腫れてしまったようで男に名前を聞くことができない。

「効果は薄いから、すぐに腫れも治まる」

 そう言うと、女は自分の背中に痛みが走った。

 実際には、背中の肌に走ったのではなく、そこから出ている――真っ白な翼にだ。

「ぐぁっ――」

 女は悲鳴に近い声が出たが、どうしようもなかった。

 翼に力が入ることなく、下へ下へ、落ちていく。

「ようこそ、《陸》へ」

 男はそう告げると気配が消えた。

 女は初めて味わう感覚に恐怖した。

 堕ちる。

 何も掴むものなどなく、堕ちていく。

 男はそれを見て、あざ笑う。


 女が落ちていく有様はまるで、天使が大地に堕ちていくように見えた。





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