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2-9

「お前のせいで世界はっ!」

「そんな……」

「やはりこやつでは無理であったか……」

「無理なんて……」

「私の案を通していればこのような事態にはならなかったっ!」

「下界のやつらはこの事態にどうとも思ってないようだぞ」

「戦争になりかねないぞ!」

「え……」

「そうなったら世界の崩壊は早まるわ」

「いや」

「全部お前のせいだ!っ」

「いや」

「お前がいけないんだっ!」



「「「お前のせいで世界は壊れたんだっ!」」」



「いやぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 葵は叫んだ。

 何もかも吐き出すように。

「だ、大丈夫か!?」

 突然ドアが開いて晃人が入ってくる。

 それに対して葵はまたも叫んだ。

「い、いやぁぁぁlっ!」

「ちょ、すまんっ!」

 葵が叫んだのは、彼女は今、裸だったからだ。

 顔色が優れていない葵を見て、晃人は彼女が寒がっているのではないかと思い、温まるように風呂を勧めたのだ。

 しかし、実際葵は寒気を感じていたわけではなく、初めはこれ以上親切にされることもないと、考えていたのだが、疲れを取るには風呂に入るのが一番いいと言われ、押し込まれる形となってしまったのだ。

「……あのさ、大丈夫なんだよな?」

「すみません……何でもありません」

 風呂は葵にとって初めてだったのだ。

 これほど疲れが取れるなど思っていなかった葵は、いつの間にか浴槽の中で眠ってしまっていた。

 夢を見るほどまで良く寝たのだ。

 しかし、どっと更に疲れが出てしまったように思えた。

「はぁ……」

 晃人は心配になって駆けつけてくれたのだと、ようやく眠気が抜けてきた頭でそう思いつき、葵はまたもや酷いことをしてしまったことを悔やんだ。

 浴槽に張ったお湯に自分の顔が映る。

 これほどまで疲れてしまっていたのか。そう思うほど、目のくまがひどかった。

 確かに疲れが自分の体から抜けていくのを感じたが、それでも心の奥底から溢れ出てきてしまう。

 その疲れがお湯と絡み、葵の体を縛っていくように思えた。

 だんだんと沈んでいく。

 引き込まれていく。

「何かあったら呼んでくれ」

 外から声が聞こえ、晃人が遠くなっていく。

 晃人が離れていく。


「ま、待ってくださいっ!」


 気づいた時にはそう言葉にしていた。

「……何かあったか?」

 横にスライドするドアにぼんやりと晃人の影が見えた。

 なぜだろうか、それを見た途端、いくらか体が軽くなったように思えた。

「あの、そこにいてくれませんか」

 そんな願いなど普段では口にすることなど出来ない。

 これは風呂のせいなのだろうか。

「嫌だったら別にいいですから」

「……いるから、ゆっくりしてろ」

 何かを感じ取ってくれたのか、晃人は風呂を背にして座り込むのを葵は見ることができた。

 案外性格のいい人なんだと考えを改める。

「こんな親切にしてもらって感謝しています」

「それはどうも」

 素っ気なく感じたので葵は不満な顔をしながら、晃人をからかう。

「先程はすみませんでした」

「いや、アレは俺がいけなかったし、というか、俺がすまん」

 からかうことに成功した葵は笑みをこぼす。

「何笑ってんだよ」

「晃人さんが面白いからですよ」

「人で遊ぶなよ」

 葵はそこでまたクスッと笑ってしまう。

「あのさ、女子なんて、これまで近くにいることなんてなかったから、結構緊張してんだよ、俺。なんにもしてないのに笑われても困るんだよ」

「そうですか。なら私で慣れればいいんじゃないですか」

「慣れるってどうやってだよ」

「こうしていることだけでも効果はあると思いますけど」

「そういうもんか?」

 先程まで葵が晃人に弱みのようなものを握られているように思えたが、晃人にもそれなりの弱みを持っていたということだ。

 こうして近くにいるだけでも、晃人は葵に対して緊張している、というのは、まだあまり自分に心を開いてもらっていないのだと、葵は改めて思う。

「晃人さん」

「ん? なんだ?」

 なるべく葵のことを気にしないように何かを考えているようだった晃人に、葵は自分の全てを伝えようと思った。そう思ったのも、風呂のおかげなのかもしれない。

「私はこの世界に来て、ずっと一人でした」

「……まぁ、こっちに仲間がいるようなことを言ってなかったな」

「私だけしかこの世界に入ることができませんからね」

 それについては後でまた話そうと葵は考えて、話を続ける。

「この世界に来たとしても私は大地に足を付けることができませんでした。空に縛られてますから。それに、たとえ足が地面につくことが出来ても、この足には筋力がありませんから、歩くことも立つことすらできないと思います。でも、私の目には入ってくるんですよ、忙しく歩いてく人々が。それを見ていると、孤独を感じてしまって……」

 葵は目をつぶる。

「私たちの世界――《天界》に住む人々の中には、足のない者たちが多くいます。私は足がある天界人の中でも自由の効く足でしたから、この世界――《地界》に来れば立てると思っていました。でも、それは甘い考えだったようです。所詮私たちは空に縛られてしまった人類。大地に降り立つことを許されることはなかったんです」

「そうか……」

「晃人さん、あなたは私たちと同じような翼を生やすことができましたね」

 葵は夕食でのことを振り返る。

「《天界》でも、あれほど綺麗な翼を持っている人はいませんでした。どうしても不純物まで取り込んでしまって、部分部分で薄汚れてしまうんです。でも、それほど真っ白な光を帯びた翼を生やせる人が私に教わるようなことはないと思います」

 真っ白な翼。

 そんな立派な翼を発現するのは、天界人でさえも高度な技術を必要とする。うまく光を取り込めなければ黒ずんでしまう。そんな技術を持っているのだから、自分と同等の飛行技術を持っていてもおかしくないと、葵は疑ったのだ。

「えっとだな、飛べるには飛べるんだ」

「なら――」

「だけどな。俺にはわからないんだが、どうしても翼が崩壊するんだ。飛んでる途中である高さに達すると、翼が壊れて、そのまま落ちるんだ。重力に引っ張られて」

それを聞いて、蒼はある結論が出る。

「私たちはやはり縛られているんです……」

 そう嘆くように呟く。

 結局は、葵が大地に降り立てないと同様、晃人は空にはいられないのだ。

 天界にいた時の自分はいったいなんだったのだろうか。

 周りからはちやほやされ、大地に降り立つことなど造作もない、そう考えていた自分を葵は恥じた。

 世界に抗うことなど不可能なのだ。

 それをこの世界に来て思い知らされた。

「世界の理は絶対のようですね……」

 葵は俯く。

 知らず知らず頬から水滴が水面に落ちていく。

 期待などしなければよかったのだ。

 自分の成すべきことのために、この世界にやってきたのだ。自分の願望など二の次なのだと、改めて思い直す。

 そして、自分の二の舞にならないように、葵は晃人に告げる。

「たぶん、晃人さんも飛べない、と思っていたほうがいいと思います」

「……そうか」

 葵には、ため息混じりにそう聞こえてきた。

 そして、晃人の体が動く。

 立ち上がって体を伸ばす。晃人が出て行くのだろうと思い、葵は浴槽から浮き上がって体を拭こうとする。

 そんな時、思いもよらない言葉を晃人は言った。

「でも、俺は空飛ぶ専門の人間の力なしでやろうとしてたからな、ひどい飛び方でもしてたんじゃないかと思う。だから飛べないんだ」

 外にいる晃人がこちらを振り返った気配を葵は感じ取った。

「それは葵さんにも言えることじゃないか?」

「それは――」

「一回でもやってみるのはどうだ?」

 葵はハッと息を飲んだ。

 持っていたタオルが床に落ちる。

「あ、でも葵さんには時間がないんだよな」

「――時間なら作ります。だから教えてください!」

 そう勢いで言葉にした葵。

 その顔は、すでに疲れなど感じているなど微塵も思わせない顔へと変わっていた。






ちょっと内容が薄いかもしれません。雑になってしまっていると思うので、数日後に内容を増そうと思います

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