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2-4

 風呂に入ってみれば、どこもかしこもアザだらけだった。

 念入りに体を洗って、浴槽に浸かれば、すぐにでも寝てしまいそうなくらい居心地が良かった。それでも、昼頃には学校に向かわなくてはならない。

 それを頭の隅にでも置いやりたくて仕方なかったのだが、そうは言ってられない。晃人は体が暖まると風呂から上がる。体を拭き、髪の毛を乾かし、自分の部屋へと向かう。

 先ほど翔馬が言っていた通り、晃人の部屋には翔馬がいた。

「ベッドに横になれ」

 そう言われて、晃人は上半身裸になり、うつ伏せになって寝る。

「ひどいな……もっと大事にしろよ」

「翼をか?」

 晃人からでは翔馬の顔を覗き込むことは出来なかった。

 だが、その一瞬だけは確実に晃人は時間が止まったような気がした。

「――翼もだ。俺はお前の体の方を言ったつもりだったんだが」

 晃人は口を開くことなく、翔馬に体を診てもらった。

「お前さ、そんなに俺の薬が嫌か?」

「は?」

「また飲んでねぇだろ」

 晃人は、何を言っているかわからない、という顔をする。

 だが、それは翔馬には意味のない行為であった。

「まるわかりなんだよ、第一お前が俺の薬を飲むわけがない」

「ちっ」

 翔馬は晃人のアザの一箇所を押す。

 それに悶える晃人。

「うっ……チクショウ……」

「だったら体を大切にしろよ、翼だけに集中してねぇで」

 その後の翔馬のマッサージは効果的だった。

 だいぶ腰にきていたのか、体を起こした時の開放感は何とも言えない気持ちよさだった。だから晃人は、それについてだけは感謝する。

「お前が何考えてんかわからねぇけど、晃人。別にお前を実験台にしてるわけじゃない。モルモットにしているわけじゃあ、ない」

 翔馬が何を言いたいか、晃人にはわからなかった。

 話は続く。

「単純な話だ。医者は患者の体を良くしたいと思っているだけだ。それは俺も同じで、晃人の体は俺が責任を持って良くしようとしているだけだ。それがマッサージであって、薬もその一つだ」

「あの薬は飲めない」

「やっぱりわかんねぇか」

 翔馬は呆れたような顔をする。

「その薬を飲まねぇとな、こことここ」

 翔馬は晃人の背中を押す。それは昨日病院で触られた箇所と同じ部分であった。そこにはあざはなく、痛みが走ることもない。

「俺の押した部分は、全て――火傷だ」

「火傷……? そんなわけ――」

「お前が一番知っているだろ。翼が白鳥のような真っ白な実態のある翼であるのに対し、お前の翼は――光り輝いた偽りの翼だ。それがどういうモノなのか、どういう仕組みで宙に浮くことができているのか、自分でわかっているのか」

 晃人は顔を俯かせてしまう。

 それはずっと晃人が疑問に思っていたことだ。

 なぜ、自分の翼は光り輝くのか、崩れるのか、どうしてそうなのか、どれに関しても晃人は翼について知らなかった。知ることなど出来なかった。

「翔馬は知ってるのか」

「知ってるも何も、医者になる前は『翼』の研究をしていたんだよ」

 それを聞いて晃人は体を起こして叫んだ。

「俺の他にも翼の生えた奴がいるのか!?」

「――もういない」

 その言葉には何もなかった。

 重みがあってもおかしくはないのに、晃人にはそれを感じ取ることが出来なかった。

 しかし、翔馬の言葉を聞いて、自分の他にも翼を持った人間がいたことに、なんとなく安堵感があった。

「お前の背中の火傷は、その翼によるものだ。不完全な翼のために自分の体まで傷つけてしまうんだ」

「そんな……」

「それを防ぐのがその薬だ。だから飲めって言ってんだよ」

 晃人は悩んだ。

 翼を失って、自分の体を守るか。

 自分の体を糧に翼を使うか。

 その決断は晃人がすぐに決められるようなものではなかった。





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