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婚約者を譲ります、領地をください  作者:


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第十話 視察

 秋の収穫まで二週間を切った頃から、ガルトの来る頻度が増えた。


 最初は三週間に一度だった。それが二週間に一度になり、気づけば週に一度になっていた。


 毎回、理由は「視察」だった。


「また視察ですか」


 エルナが言うと、ガルトは答えた。


「収穫前は農地の状態を確認する必要がある」


「ロッテンはガルト様の領地ではないですが」


「隣接しているから関係がある」


「どういう論理ですか」


「隣の土地の収穫量は、うちの取引にも影響する」


 エルナはガルトを見た。


 言っていることは、筋が通っているようで、通っていない。でも反論しにくい。


「……どうぞ」


「水車の進捗は」


「昨日、試運転をしました。問題なく動きました」


「製粉は出来るか」


「今週試します。麦が取れ次第、最初の製粉をする予定です」


「粉の品質によっては、うちで買い取れる」


 エルナは少し驚いた。


「本当ですか」


「うちのパン職人が材料を探していた。ちょうどいい」


「価格はどうなりますか」


「市場の相場に合わせる。ただし品質が一定でなければ困る」


「品質管理は徹底します」


「なら話が出来る」


 エルナはノートに書いた。製粉品、ドレーク領への販売可能性あり。試算要。


 これが実現すれば、収益の柱がもう一本できる。


「ガルト様、ありがとうございます」


「取引の話をしただけだ」


「それでも」


「礼はいらない」


 収穫の一週間前、村全体が慌ただしくなった。


 麦の刈り取りに向けて、農具の確認、人員の配置、収納場所の準備。エルナは毎日ヴェラと話し合いながら段取りを組んだ。


 子どもたちも手伝うと言ってきた。


「大人の邪魔にならないように動けますか」


「できる!」


 マリアが答えた。こういうとき、マリアはいつも代表して答える。


「では、刈り取った麦を束ねる係をお願いします。大人が刈ったそばから束ねていく。できますか」


「できる!」


 子どもたちが元気よく答えた。


 ガルトがその日もちょうど来ていた。端で見ていた。


「子どもに仕事を振るのか」


「できる仕事がある人には、仕事をお願いします」


「子どもだぞ」


「年齢より能力です。前世でも、若い人に早くから仕事を任せた方が成長が早かったので」


「また前世だ」


「慣れてください」


 ガルトは少し黙ってから、子どもたちを見た。


「……楽しそうだな」


「はい」


「ロッテンには昔、子どもがもっといたが」


「戻ってきます。今年の収穫が良ければ、来年はさらに人が増える見込みです」


「見込みか」


「試算です。でも数字は嘘をつかないので」


 ガルトは少し笑った。最近、たまに笑う。


 収穫は五日間かかった。


 子どもも大人も、ベルクも、エルナも、全員で動いた。


 五日目の夕方、最後の区画の麦を刈り終えたとき、村人たちが一斉に声を上げた。大きな声ではなかったが、静かな喜びが広場に広がった。


 エルナは収穫された麦の山を見た。


 試算より少し少ない。でも、十分だった。


 借金の残額を返せる。農具のお礼を返せる。ベルクの給与を払える。来年の種代も残る。


 黒字だ。


 僅かだが、黒字だ。


 ヴェラがエルナの隣に来た。


「エルナ様」


「はい」


「ありがとうございます」


「私は段取りをしただけです。刈ったのはヴェラさんたちです」


「そうじゃなくて」ヴェラは少し間を置いた。「来てくれて、ありがとうございます」


 エルナは何を言えばいいか、少し考えた。


「……私が来たかったので、来ました」


「知っています。だから言っています」


 ヴェラはそれだけ言って、村人たちの方に歩いていった。


 エルナは麦の山を見た。


 目が少し熱くなった。泣くような話ではないと思ったが、なった。


 視線を感じた。


 ガルトが少し離れたところから見ていた。目が合った。


 ガルトは何も言わなかった。エルナも何も言わなかった。


 でも、ガルトが小さくうなずいた。


 それだけで、十分だった。


 エルナはノートを開いた。


 収穫量、記録。借金返済額、記録。残額、記録。来年の計画、一行だけ書いた。


「来年は、もっと広く」


 夕日が麦の山を染めていた。


 数字は今日も正直だった。

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