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『双星のヴァルキュリア  堕天のミスト』一白き死に神の涙一 パートⅡ

「キュィィィーン」

大きな哀しみの共鳴……

城内に待ち受けていたのは全く異質な哀しみの集合体だった。

第二章:古城の『哀』とエインへリヤー


「キィーン……」

羽根飾りが哀しく共鳴した。

小高い丘にミストは舞い降り、古城を見る。

陰謀により王は失脚し、民衆の前で処刑された。

アーサー王の悲劇。

「民よ!私は……潔白だ!」

王の必死の叫びは、民衆に届かなかった。

国は弱体化し、隣国の侵攻により滅んだ。


「キュィィィーン」

再び羽根飾りは大きく激しく哀しく共鳴する。

城内に存在する、強い哀しみの主が誰なのか突き止める。選定者として。

柱は折れ、ステンドグラスは割れ、壁画は欠け落ち荒廃している。


ミストは立ち止まり、目を閉じ羽根飾りへ意識を向ける。

「キィーン」

頭に流れてくる景色。

長い廊下を抜けると、開けた庭のような場所。


「そこにいるのか……」


辿り着いたそこは処刑場。

「大きいな……」

そこに佇むのはいつもの哀しみではない。

幾重にも重なり合い、黒い集合体となり震えていた。

「処刑場なら、感情がより大きく爆発するだろう。想いは強くなるか」

ミストは剣を抜き、哀しみに近づいた。


「…シュッ!」

哀しみから黒く鋭い何かがミスト目掛けて向かって来た。


「ガキン!」

ミストは驚き剣で払う。

頭の羽根飾りの欠片が飛び散り、羽根が宙を舞った。

一瞬の出来事で理解が追い付かない。

「何が起こった」

哀しみから距離を取る。


「まさか……多くの哀しみが年月を経て、意思と実体を持ち始めているのか。危険だな」


「神に対し刃を向け、傷付けるとは!この私が浄化する!」


「シュン!」

再びミスト目掛けて触手が襲う。

「ダッダッダッ!」

ミストが走ると次々に触手が追ってくる。

「ガコン」「バキバキ」

柱が崩れ、ミストは壁に身を隠す。


辺りが静まり返ると、何もしてこない。

「コツン……」

「スパン!」

その時、壁の一部が転げ落ちると触手が伸びた。


「音か」

ミストは神の糸で柱を切る。

「ガラガラガラ」

「スパン!」 「スパン!」

落下と同時に触手が伸びる。

「手こずらせる!!」

「シュルルルル!」

哀しみに神の糸が絡み付き瞬時に切り裂かれた。


目の前で哀しみの黒い霧は哀の結晶へと変化していく。

光を拒絶するような漆黒の結晶を手に取る。

ゆっくりとミストの意識の中に哀しみが伝わってくる。


王が処刑台に上げられている。

民衆が王に石や罵声を浴びせていた。

「税を重くしやがって」

「死んでしまえばいい」

まるで見世物のようだ。

「私は罠にはめられたのだ!

信じてくれ……裏切ってはいない……民よ!」

王の声が空しく響いている。


「この哀しみ達の核となる存在は、王の哀しみか。さぞかし悔しかったのだろう。

私は貴様の哀しみを理解してやることはできない。人は所詮、愚かな生き物なのだ」


「王よ!これからは共に逝きよ。エインへリヤーとしてな」


そう告げると羽根飾りの傷に触れる。


「この傷は、己が油断した戒めだ……」


ミストはその場を静かに立ち去った。


折れた羽根を残して。



第三章:交わらぬ双星


ラグナロク……

人の世界は確実に歪み始める。


町は炎と煙が巻き上がり、田畑は荒らされる。

奪う者と奪われる者。

悲鳴と鳴き声は夜の闇に溶けていく。


哀しみに導かれるまま、二つの羽根飾りが共に共鳴する。


一つは、光。

一つは、白。


ルナは町を見渡す。心が揺れる。

「どうして人はこんな醜いことを繰り返すの……」


叫び声だ。

「もうやめて下さい!」

「どうか、食料だけは持っていかないで!」


女性が盗賊の腕を掴んで抵抗していた。

「うるせぇよ!!」

剣が振り上げられる。

「キャー!」

その瞬間。

「ガキン!」

鈍い金属音と共にルナが間に入る。

盗賊の剣は宙を舞った。

「やめなさい!」

ルナに剣を突き付けられ盗賊は後退りをしながら逃げて行った。

「ありがとうございます……」

「さあ、逃げなさい」

ルナは町の中心部へ向かう。


「キィーン」

弱々しい哀しみが聞こえる。

崩れ落ちた瓦礫から少女の哀しみが伝わって来る。

「お母さん……どこにいったの?

まだ私はここにいるよ」


ルナは静かに剣を抜き、ゆっくりと歩み寄る。

「もう大丈夫……もう怖くないわ」

「哀しみのままここに居続けては駄目よ。

再び希望となって生まれ変わるの」


哀しみを切り取る。

「お母さん……」

少女の体から力がぬけた。

傍らに膝を付き、優しく抱き締める様に浄化される。


「さあ、一緒に逝きましょう。我と永遠(とも)に……」


ルナの胸へと導かれた哀しみは抵抗することなく、涙と共に哀の結晶へと変わっていく。


その光景を、少し離れた場所から見つめる影があった。


――ミストだ。


「何を考えている……ルナよ」

ミストは首を小さく横に振った。

彼女の心は揺れている。

人は何を望んでいるのか。

絶望か?

それとも繁栄という夢や幻を見ているのか。


目の前で繰り返されるこの惨劇。

人は哀しみを生む根源であり救いを差しのべる必要はない。


哀しみに優しく寄り添い、浄化するルナの行為は理解に苦しむ。


ミストは剣を抜かず神の糸で哀しみを切る。

糸は哀しみに絡みつき瞬時に切り裂く。


哀しみは悲鳴を上げることもなく、 その場で霧散した。

人の命ごと、切り捨てられたかのように。


「甘いわ……ルナ」


「ミスト……」


二人の視線が、初めて交わる。


同じ力と使命。

だが、その在り方は、あまりにも違っていた。


ルナは、人の想いや願いを見る。

ミストは、世界の歪みの根源である人の悪しき欲望を見る。


そして二人は理解する。


――この先、同じ未来には辿り着けない。


瓦礫の向こうで音がした。

二人の沈黙を破るかのように、盗賊達がミストへと刃を向けた。


「おい!女がいるぞ! 殺せ!」


刹那――ミストは、不敵な笑みを浮かべる。

「ふっ……この愚か者どもが!!」

次の瞬間、腕から放たれた神の糸が宙を走った。


「ミスト!」

止める間もない。


「ギャー!」

「一体何が起こったんだ!」

絡み付いた糸は盗賊たちの身体を切り裂き、崩れ落ちる。


「死神……白い死神だ!」

恐怖に叫び声を上げ、武器を捨てて逃げ去っていった。


糸は引き戻され、鮮血がミストの身体に付着する。


白い装束に散った血を見下ろし、ミストは静かに呟いた。


「ルナ見て……返り血は、美しい。だから、私は白でなくてはいけないの」


血の赤はより一層その白を際立たせていた。

ミストの唇が、わずかに弧を描き、盗賊達へ目線が向かう。


静寂の中、ミストはルナへと振り返る。


「ねぇ……ルナ、この町の惨劇を見たでしょ?」


ミストの声は冷たく、だが揺れていた。


「これが、私たちが守るべき価値のある人間なのかしら?」


ミストは続ける。


「人は自ら哀しみや、絶望を生み出し、拡げていく。 ならば私は――その根源を断つと考えたわ」


ミストは一歩、ルナへ近づいた。


「ルナ……私の言っている意味が、わかるでしょう」


そっと、右手を差し出す。


「今から、私と共に来る気はない?」


しばし、沈黙が落ちた。


燃え残る炎の音だけが、二人の間を満たす。


やがて、ルナはゆっくりと口を開いた。

目の奥には怒りが見えた。


「ミスト……神がなぜ人を殺めるの!こんな無慈悲に!」


「人は確かに傷つけ合うわ」


ルナは結晶を胸に抱いたまま、続ける。


「でも、抗う術も持っている。

人は絶望し哀しみを生んでしまう。

それでも手を取り合い、新たな希望を見つけ出すこともできる!共に助け合う人々を私は見て来たわ!」


ルナはミストを見つめ、はっきりと告げた。

「だから……私は人の可能性を信じたいの!」


「ルナ、哀しみを浄化する事は、我々の与えられた使命。

でも、生きて残された人は救われているのかしら?」


「えっ……」

ルナの頭に記憶が甦る。

盗賊に襲われた女性。

少女の哀しみの浄化と母親の存在。

残った者はこれからの時間をどう生きるのだろうか。


迷いを消すように一歩前に出る。


「ミスト……あなたは間違ってるわ!私と一緒に行きましょう」


差し出された手に、ルナもまた手を伸ばす。


だが――


二人の指先が触れることは、なかった。


ミストは、静かにその手を引いた。


「……そうか」


長い羽根が、風に揺れる。


「やはり、同じ星として共に歩めないか……」


その時ミストは手を見て思い出す。

「痛ッ……」

「ルナ、大丈夫?」

ルナが転んだ時に、そっと手を差しのべた事を……


背を向けるミストの声は、哀しみを帯びていた。


「だが、いずれ選ばねばならない時が来る」


「世界か――あなたか」


ミストは振り返らず、闇の中へと消えていく。


残されたルナは、その背中を見つめながら、胸に残る痛みを静かに抱き締めた。


「私に与えられた使命。ただ哀しみを浄化していただけ……。それでも、私は信じたいの」

「ミスト……あなたに一体何があったの。どうして変わってしまったの」


ルナは思い出す。

天界がまだ存在していた時、二人はいつも手を取り合い一緒だった頃を。


交わらぬ双星……。


それでも、二つの星は同じ空の下にあった。

光と白

二つの星はいつかは交わるのだろうか。

ミストは己の信念のために闇のオーブを手にする。

この先に待ち受けるのは救済かそれとも破壊か。

パートⅢに続く

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