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第7話 レリア家。

2日かけて王都にあるレリア家に着く。

ここの伯爵家は歴史が長い。荘厳な建物だが…使用人は少ないようだ。

玄関に馬車を横付けして、アルレットの手を取って馬車から降ろしていると、ようやく家令らしき男が駆け付けた。


「アルレット様!皆様お揃いでございます。ご案内いたします!」

俺は一瞬迷ったが、アルレットについて何食わぬ顔で屋敷に入る。家令はよほど慌てているのか、俺の素性についての言及はなかった。


「ここ一週間ほどお坊ちゃまは寝込まれておりまして、今朝ほどようやく落ち着いてきたところでございます。」

家令に案内されて、一階の部屋に入っていく。白衣を着た医師が待機しており、枕元には、おじい様?が寝込んでいる男の手を握っている。


(…これは…結構ひどいのか?)


まだ昼間なのにカーテンが引いてある部屋に、目が慣れてきたら、かなりの人数が集められているのが見える。


「ああ、アルレット……来たのか?」

「お父様、お兄様まで…ええ。電報が来たものですから。」


声をかけてきた二人は、アルレットの身内らしいな。二人そろって、困った顔をしている。

「まあ、ダニエル君に会ってから、だな」

そう二人に促されて、アルレットが男の寝かされている寝台に近づき、恐る恐るのぞき込んでいる。

「ああ…アルレット、来てくれたの?」

もごもごと、ようやくそう言ったその男は、あごから頭にかけて、白い包帯で覆われている。


「……」

(頭か?重症なのか?)


アルレットが、待機している医師に話を聞きに行く。

「え?」

っと、小さく叫ぶ声が聞こえた。


僕は…実は気が付いていた。いや、今回のことで確信した。

急に帰るというアルレットが心配で一人で返したくなかったのもある。

アルレットといると居心地がいい。かゆいところに手が届くというか…。

お茶を入れるのが下手なくらい、僕が入れ続ければいいことだし。

アルレットは…黒髪もつやつやして綺麗だし、クリっとしたこげ茶の瞳だってかわいい。僕はこの子がどこにいても見つけられる。

いつも仏頂面だが、美味しいものを食べているときはにこにこしている顔も可愛い。

2年…2年毎日のように一緒にいて…


もう、何も僕から言い出せもしないうち、お別れなのか?

…そうだよな、こいつには婚約者がいるんだし…


自問自答していたフリッツが、そっと部屋から出ようとしていたその時。


「は?歯、ですって?」

と、地獄の底から聞こえるような低い声でアルレットが医師に聞き返していた。

「…ええ。虫歯です。ひどくなっておりまして、もう抜くよりほかは治療のしようがないんですが、お坊ちゃまが抜きたくないと申されまして…」

「へえ…そのためにわざわざ、2日もかけて私は帰ってきたわけですね…。へえ…先生、今からでも抜けますか?」

「はい。ちょうど腫れも引き出したところですので、いいころ合いです」

「ふーん。どうやって抜くんですか?」

「これで、」


医師が先が折れ曲がった造りのペンチを出して、アルレットに見せている。

「へえ…ここでその歯を抑えて、引き抜けばよろしいんですのね?先生」


ペンチの開き具合をかっちゃかっちゃいわせて確認していたアルレットが、そのまま寝台に向かっていく。

「おじいさまはそのまま手を押さえて下さい。父上、足を抑えて!兄上、この顔に巻いた包帯を、こう、口にくわえさせて…兄上は上に、教授は下に!」

「あ、ああ。」

「思い切り引っ張って下さい!先生、どの歯ですか?」

「奥から三番目の、そう、その歯です!」


「このやろおおおおおお!」


アルレットんの怒声が聞こえた気がした。婚約者に対してなのか、婚約者を悩ませた虫歯に対してなのか…。


うぎゃああああ、という絶叫と共に、

とりあえず、虫歯は抜けたようだ。













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