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第5話 電報。

その日もフリッツ教授の研究室で、彼の論文の資料作成を手伝っていたアルレットのもとに、意外なものが届いたのは、もうすぐ春だな、と言う頃。


「失礼します。アルレット・デジレ様宛に電報が届いております」

「え?私にですか?」

配達員が学生課で、アルレットのいるところを聞いてきたらしい。受取の書面にサインを入れて、アルレットが訝しげな顔で電報を開く。


【ダニエル キトク スグカエレ】


「……」

声も出さずに立ち尽くしているアルレットを心配して、フリッツは資料まみれの机から席を立って、そっとアルレットに寄り添う。


「どうした?大丈夫か?」

「……」

「家族の誰かが具合が悪いのか?」

「……」


黙って、今しがた着たばかりの電報を差し出すアルレット。既得?ああ、危篤?

「これは、前に言っていた君の婚約者、か?」

「はああああっ、」

返事の代わりに盛大なため息が返ってきた。


「こちらのことは気にしないで行って来い。今回の論文は予定より随分進んでいるし、お前の博士課程の入試も終わっているし…急いで帰れ。馬車は俺が手配しておく。荷物をまとめて来い。な?しっかりしろ。」

「……」

とぼとぼと寮に向かって歩いていくアルレットの後姿を見送る。


嫌だ嫌だ言っても、やはり小さいころからの婚約者、心配で仕方ないんだろう。

フリッツは、小さくなっていくアルレットの後姿を見ながら…なんだか自分の胸がむかむかするのに気が付く。


危篤…急なことだったようだから、ケガか?急な病気?


顔も知らないダニエルと言う男に泣きながらすがるアルレットのことを想像したりして…なんだか…本格的にむかむかする。


(お昼を食べ過ぎたかな…)


今日のお昼は自分でパスタを作って、二人で食べた。研究室の控室には小さな台所がついている。アルレットは何でも出来そうで、台所仕事だけは全くできなかったので、フリッツはお茶も自分で入れるし、時間の余裕があれば簡単なお昼ご飯ぐらいならちゃちゃっと作る。一人暮らしが長かったこともあるし、毎回きっちりした食事では飽きてしまうので。二人で話しながら美味しく食べた。そう、ついさっきまで…いつも通りの毎日だったのに。


フリッツは教員宿舎に戻って、自分の馬車を用意させると、寮の前でアルレットを拾って、王都のレリア伯爵家に向かうように御者に伝える。


フリッツは、ほんの少し立ち止まって考えて、教員宿舎に戻っていった。





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