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第3話 アルレット。

フリッツは困っていた。

論文が認められて経済学部の教授になったところまでは良い。学部の学生に助手を頼もうとすると、雇った女の子が豹変する。

仕事の説明をしても話を聞いてもらえず、お断りを入れると物陰に隠れていたりして怖い。頼んだ資料はそろわないが、よくわからない焼き菓子や、怪しいお茶が用意されていたりする。

男子学生に頼んだら、恋人を取られたと難癖をつけられ、待ち伏せされる。怖いわ!僕宛に来ていた手紙を皆燃やされたこともあった。


なぜ?


仕方なく直接募集は諦めて、学生課に頼んで、アルバイト希望生を紹介してもらった。そうして、アルレットが僕の研究室に来たわけだ。


話は聞いていないようで、一聞いて十理解するような子だし、

物陰に隠れている、と思って構えたら、僕の蔵書を徹夜して読んでいたらしいし。

頼んだ資料はさっさと揃う。研究室はいつもきれいに片付いている。

僕宛に来た書簡は、綺麗に仕分けされている。なんなら、異国語は翻訳までしてある。

授業態度もすこぶる真面目。質問も的を射ている。よくよく聞いたら、商売上手なデジレ子爵家のお嬢さんだった。真面目で手堅い商売をするところだ。


「簡単な質問でしたら、私がお受けいたします。」

そう言って、僕の研究室に押し寄せてくる女子学生の質疑応答もこなしている。上級生とやり合っているところを見ると、かなり勉強しているようだ。ふむふむ。拾い物だな。

男子学生とも臆せずやり合う。口は立つ。特に恋愛がらみには辛口みたいだ。

「まあ、あなたの恋人が教授に恋を?あなたが恋人の心をしっかりと捕まえておけば済むことでは?心なんてどうやって捕まえるのかはわかりませんがね?頑張ってください。」

しれっと…応対して、研究室のドアを閉めていた。


ただ…お茶を入れてもらったら、どうもこれは自分で入れた方が美味しいお茶が飲めそうだったので、お茶係は僕になった。


今日もひと段落したところでお茶を入れる。

アルレットが来て、早2年。雑多なことに気を取られずに、論文がようやく落ち着いて書けるようになった。快適である。アルレットはそのまま博士課程まで進むと言うので、あと2年は安泰だ。出来ればこのまま僕の秘書として残ってほしいと思っている。


黒髪、ぱっつん前髪は自分で切っているようだ。邪魔にならないようにぎっちり三つ編み。瞳はありがちなこげ茶。服装も地味。全体的に地味過ぎて、授業中、すぐ探せる。

アルレット・デジレ。


(…まさかこの子に婚約者がいるとはねぇ…)

貴族のお嬢さまなら、婚約者のいる年齢か…。そういわれればそうか。

ただ、この子から恋だの愛だのの話を一度も聞いたことがなかったし、婚約者と舞踏会に行くので休みます、なんてこともなかった。

僕はずっと留学していたから、この国の社交界には疎いままだ。教授職になったから忙しかったし。舞踏会に出かける暇があったら、隣国の商社か新しくできたという紡績工場でも見学に行きたい。


なんか…アルレットなら理解してくれそうな気がする。家族はわかってくれないが。




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