学のない俺ら(三日月商会って何ですか?)
「依頼主の名前までは分からねーが、関わってそうな連中の情報だけ教えてやるよ」
そう言って、権田川は土に埋もれていない片腕を動かし、土の上に指でゆっくり円を描いた。
「この街で最近、やたら話題になってる“新しい商会”があるだろ。名前は”三日月商会”。表の顔は輸入香辛料。裏は……まあ、想像に任せるよ。紋章は名前の通り、“円の中に欠けた三日月”。商会の名前を知らなくても紋章を見れば分かるだろうよ。奴らが取り扱っている香辛料のほとんどに、この紋章が刻印されているからな」
俺は権田川が土の上に書いた紋章を見つめる。
円の中に、欠けた三日月。
すまん。あまりピンと来ていない自分がいる。
自分の無知を隠すように、俺はラティに三日月商会のことを訊ねてみる。
「なぁ、ラティ。この紋章知ってるか?お前、料理にハマってただろ?香辛料とか使ってたら見たことあるんじゃないか?」
「う~ん......。見たことないわね。香辛料を買ったら別の容器に移し替えちゃうから、見る機会が無いのよね」
ダメだこれ。何でそんな時に限ってインテリアに凝るんだよ。
まぁ、三日月商会のことを全く知らない俺も俺だな。こんな時にソウタが居てくれたらどれだけ有益な情報を引き出してくれるか。
権田川、色々教えてくれてるのに、学のない俺らですまんな......。
とはいえ、もう少し三日月商会と複製スキル持ちについて探ってみるか。
「じゃあもう一つ質問な。お前はどこでその複製スキル持ちと知り合ったんだ?」
「知り合ったってほどでもねぇよ」
権田川は鼻で笑い、埋まった肩をわずかに揺らした。
「あいつの方から俺を見つけてきたんだよ。最初に声をかけてきたのは、街外れの飲み屋通りだったっけか。まぁ繋がりがあるかは分からねーが、あそこの飲み屋通りにはな、何軒か三日月商会が経営してるところもあるんだよ。ホントに物騒な気配が漂うとこだよな」
おそらく、コイツが言っている場所は俺たちがこの世界で初めて霧ヶ峰先輩と対面した飲み屋の通りだろうな。散歩にハマってたときもあそこの通りは若干避けてたところもあるし、治安が悪いということはなんとなく知っていた。
「俺がその飲み屋通りの一つで酒を飲んでるときに、奴の方から話しかけてきたんだよ。”あんた、能力持ちだろ”って言われてよ、そん時は動揺したもんだ。誰にも俺が能力持ちだって言ったことはねーし、面識もない奴から言い当てられたからよ」
「ということは、複製スキルを持ってるやつは誰がどんなスキルを持っているかということまで分かるのか?」
「いや、そういう訳じゃねーと思うんだよな。奴から声をかけられたときに、後ろでそいつに何か囁いてたヤツがいたんだよ。もしかしたら、そいつの仕業かもしれねーな」
なるほど。複製スキルを持ってるやつの後ろにはそんな奴までいるのか。どうやらこれは本当にやばい事に関わってしまったのでは......?
「そんで、お前らはどうするつもりなんだ?三日月商会の闇でも暴くつもりなのか?」
どうしたもんか。俺たちは、ただ下着泥棒を捕まえるだけのつもりだったが、そんな闇に切り込んで行くつもりも無いんだよな。
「シンヤ、どうする?私は下着泥棒を捕まえられたから満足してるんだけど。まぁ判断はあんたに任せるわよ」
お前、結構重要な決断を俺に振りやがったな。
しばらく考え込み、俺は決断をする。
「よし、保留で」




