木箱開封しました(返品希望)
「おい、マジかよ…」
俺たちは一斉に後ずさった。
木箱の中から出てきたのは、なんと――エルフだった。
しかもこれがまた、とびきりの美人だった。
とりあえず、一度退こう。
そう言わんばかりに俺たちは無言で木陰へと集まった。
「なあ、これって夢か?」
「いや、これは紛れもなく現実だ」
「てか、マジで運んだ箱からエルフ出てくる世界あるんだな…」
俺たち3人は木の陰からそっと様子をうかがった。
エルフは長い銀髪に透き通った肌、整った顔立ちに、ほのかに光る耳の先端。ぱっと見た感じだと俺らと同じ歳くらいか。
「これは…当たりだな」
「いやもう、バイトの報酬これでいいよな?」
しかし、そんな俺たちの淡い期待は、彼女が口を開いた瞬間、見事に打ち砕かれた。
「…あ゛あ゛ーっ、やっと出られたァァ~~~! クッサ! なにこの木箱、ムリなんですけど。あ、おーい! 誰かいる〜? 私、喉乾いてるから水欲しいんですけど~。え? 誰もいないの~? チッ、最悪だわ、まじで」
…うん、夢だと思いたい。
てか誰だよ、エルフ=清楚って決めつけたの。
「……は?」
「テンションも語尾も壊滅的だね」
美人だった。ただし、外見だけは。
性格は完全に、異世界どころか地球でも迷惑系インフルエンサー寄りだ。
エルフは自由気ままに木の実をもぎ取って食べるなり、「やだ~これ糖質多そう~」と吐き出し、次の瞬間には地面にドカッと座って「歩くのつら〜い、肩こった〜」と寝転がった。
俺たちは息をひそめて木陰から様子をうかがっていた。
その時――バキッ。
「ソウタ! お前、枝踏むなって!」
「うわ、ごめん……足元見てなかった……」
エルフがピクッと反応し、こちらに顔を向けた。
「うぇ!!誰かいるんでしょ!出てきなさいよ!!」
「もう隠れ続けるのは無理そうだな…」
俺たちは恐る恐る陰から姿を出し、エルフの前に横並びで立った。
「居るんだったらさっさと出てきなさいよ!バカどもが!」
なんか前世でも、こうやって横並びになって先生に怒られたことあったな。
俺が前世の思い出に浸っているとエルフが不機嫌そうに何か言い出した。
「それより水無い?喉が渇いて死にそうなんだけど」
「えーっと、これならあるんですけど...」
ソウタはなぜか風呂敷を差し出した。
喉の渇きに風呂敷。どういうこと?
「は?バカじゃないの?それでどうやって喉を潤すっていうのよ!そこのあんた、運動だけは出来そうな顔してるわね、村まで走って買ってきなさいよ!」
「なんで俺だけ実害受けてんの!?」
エルフはタカシを指差し、生意気な面で命令してきた。
もう一度、俺たちは先ほどまで隠れていた陰に集合する。
「……なあ、戻さね?」
「箱に?」
「うん、戻そう」
「風呂敷で上からグルっと巻いて……」
「“中身に問題アリ”で返品……いける?」
3人は黙って腕を捲った。