下着泥棒、後ろ後ろ(厄介なことに首を突っ込みました)
「タカシたちも捕まえたって......。そこの穴にいるやつを......。」
「は?」
思わず間抜けな声が出た。いやだって、権田川なら俺の目の前に埋まってるだろ......。
「え、いやいや! お前の見間違えなんじゃねーのか? だって、同じ人間が二人もいるわけないだろ?」
「ホントなんだって! 容姿もそこにいるやつと同じだったのよ!」
穴の底にいる土にまみれた中年男は、片腕だけを出してこちらを見上げると、俺とラティの会話を遮るかの如く、口角をゆっくり上げた。
「ははっ。向こうの方もバレちまったのかよ。二か所も張り込みしてるなんて用意周到な奴らだな」
その言い方に、背筋がひやりとする。
「.......おい。どういう意味だよ」
「そのまんまの意味だよ。向こうの人間も捕まっちまったって言ったんだよ」
権田川は肩をすくめ――いや、すくめた風の気配を作って、土の上で体を微妙に揺らした。
「まあ、俺も捕まっちまったし、あいつに借りがあるわけでもねーもんな。お前らに色々教えてやってもいいぜ」
”あいつ”ってなんだ? タカシたちの方で捕まえたやつのことか?
俺たちに素直に色々教えるなんて胡散臭さしかないが、まぁ何も聞けないよりかはいいかもしれない。
そう思い、俺は権田川に再びいくつか質問を投げかけた。
「お前に聞きたいことは山ほどあるが、まず一つ。なんで“二人”いるんだ?」
「答えは簡単。“複製”。コピーしたんだよ」
権田川は、愉快そうに鼻で笑いながら答える。
「別に俺自身で体を複製したわけじゃねーよ。複製のスキルを持ってる奴がいる。そいつに頼めば、俺は何人でもこの世界に存在させることが出来るんだよ」
“複製”、嫌な言葉だ。そんな能力をこんな変態に使っちまうとは.......。使いどころ、間違えすぎだろ。まぁそんなことはどうでもいい。問題は、複製スキルを持った人間が、こっち側の人間か、あるいは俺たちみたいに転移してきた人間かってことだ。
「そいつは......こっちの世界の人間か?」
「いいや。俺と同じ“転移者”。出どころは知らねぇが、妙にこなれた野郎だ。金の話と手際だけはプロだったな」
なるほど。霧ヶ峰先輩が言ってた“チート能力持ち”の転移者が関わってるのか。なんかややこしくなってきたぞ。てか、コイツの口から引っかかるワードが出てきたな。
「金ってどういうことだ?」
「金だよ金。俺が盗む。“いいモン”は高く売れる。裏の商会に流すんだ。で、売上の半分を複製持ちの人間に払う。そういう条件で俺は複製スキルを施してもらったんだよ」
「待て」
なんか凄い引っかかるぞ。
「“いいモン”って、下着だよな?」
「分かってねぇなあ」
権田川は、わざとらしくため息をついた。
「貴族の家系と紋章が縫い込まれた品ってのは、弱みになる。家の体面、血統の証、護符としての価値。コレクターもいるし、脅しにも使える。“着古しのレース”に見えて、実は札束と同じだ」
貴族の下着って、自分の家の紋章が入ってるのか?
なんだそれ。じゃあ貴族の下着は特注ってことなのか? 何という貴族......。しかも、この世界には貴族の下着コレクターまでいるのかよ。
ラティが小さく息を呑む。
「だから狙いは貴族街なのね......」
どうやら今回の事件は笑い話だけで済まされないらしい。
「つまり、お前一人の“変態的衝動”で済む話じゃないってことか」
「それも否定はしねぇよ?」
権田川はどこまでも悪びれない様子だった。
「でもな、俺はただの“現場担当”なんだよ。本命は、複製の奴かもな。......いや、それも違うか?その後ろにいるヤツらかもしれねーな」
「後ろ?」
「“依頼主”がいるのかもしれねーな。複製持ちはそいつから仕事を受けてるような感じがあったしな」
ラティが眉をひそめる。
「その依頼主の名前か、手がかりはあったりする?」
「依頼主の名前までは分からねーが、関わってそうな連中の情報だけ教えてやるよ」




