どういうこと?(またまた謎展開です)
権田川を落とし穴に落とした光景を見終えた俺は、テラスを後にして一階の正面扉から庭に向かった。
正面扉を開けると、その先には落とし穴の前に立っているラティがいた。
「権田川、捕まえられたな」
俺はラティの横に立ち、庭に開いた穴を見つめながら言った。
「えぇ。でも私たち、ちょっとやりすぎちゃったわね......。実際に目の当たりにすると、もうちょっとやり方あったんじゃないかって考えちゃうよね。まあ、お金は霧ヶ峰が出してくれるってことだったから派手な作戦にも同意したけどさ」
ラティの顔は若干引きつっていた。お前、霧ヶ峰先輩が出資してくれるって聞いた瞬間に全て許可したんじゃないだろうな......。まぁ、俺らの貯金じゃ絶対にこんな作戦できないけど。
穴の縁まで近づくと、土煙がほとんど消え、底の様子もはっきり見えるようになっていた。土にまみれ、頭と片腕だけを辛うじて地表に突き出した男が顔を出している。
透明化のスキルは完全に解除され、初めて対面したその姿は――
うん、どう見ても近所の商店街にいそうな「中年のオッサン」だった。
「......なんか想像してたよりショボい見た目だな」
「あんた、そういうこと言わないの。犯罪者とはいえ一応人間なんだから」
いや、犯罪者としてはむしろ優しい扱いだと思うんだけどな。こいつ、この街の貴族の下着を搔っ攫ってたド変態なんだけど。
「ラティ、悪いけど霧ヶ峰先輩たちに捕獲報告頼んでもいいか?向こうに応援も要請してほしい。縄とか拘束具とか必要だろうし」
「分かった!すぐ行ってくる!」
ラティは全速力でタカシたちのいる屋敷に向かって駆けていく。
さっきまで“競争よ!”とか言ってたくせに、また全力で走る元気あるじゃねぇか。意外と体力あるんだな。今度派遣バイトでも紹介しておくか。
さてと。
ラティが見えなくなったところで、俺は静かに視線を穴の中へ戻した。
「おーい。聞こえてるか?お前の負けだよ、権田川」
そう言うと、半ば土に埋まりかけたその男は、ゆっくりと顔を傾けた。
そして、“にやり”と笑った。
「あぁ......捕まったのか、俺」
声は意外にも軽い。焦りも怒りも、恐怖すらない。
なんだこいつ?捕まってんのに、なんでそんな余裕なんだ?
まあいい。ラティを待ってる間に、いくつか質問しておくか。
「いくつか訊きたいんだが。お前の透明化のスキル、転移して女神から授かったものなのか?」
「......秘密って言ったら?」
また笑いやがる。その目は完全に俺をバカにしていた。
「お前、自分の立場分かってるか?この街の貴族の下着を盗みまくって、今こうして捕まってるんだぞ?」
「まぁ秘密にしてもしょうがねぇか。こっちの世界に来た時から使えたんだよ。別に女神なんてものにも会ってねーし」
女神に会ってない?そんなルートで転移してくるやつもいんのか......?
「なるほどな。正直、分からんことだらけだが......なんでこんなことして回ったんだ?」
「おいおい、冗談よしてくれよ。透明化のスキルを手に入れたらやることは決まってんだろ?こっそり女風呂に入ったり、下着を盗んだりするんだよ!」
そんな意味不明なことを、権田川は決め顔で言ってのけた。
えーっと、これはジョークなのか?異世界ジョークってやつ?
決め顔で言ってくるあたり、ただの痛いおっさんなんだが。
「お前は楽しむためにやってたのか......?」
「楽しむも何も、仕事みたいなもんだよ。金にもなるし、いい女の下着も間近で拝めるしな」
どこをどうすれば下着窃盗が“仕事”になるんだよ。この世界はまだまだ謎が多い。
「で、そのスキル、どういう条件で使えるんだ?制限とかあるのか?」
そう掘り下げると、男は鼻で笑った。
「条件?それは言えねーな」
まあ、そう簡単には喋らんよな。どうしたもんか。
その瞬間、遠くから息を切らした足音が戻ってきた。ラティだ。
そして、こちらに戻るなり信じられない一言が飛び出した。
「シンヤっ......はぁ、はぁ......!聞いて!聞いてよ!タカシたちも......捕まえたって!」
「は?権田川ならここにいるだろ?」
「向こうの屋敷でも、“こいつと同じやつ”が捕まったのよ!」
言葉の端が震えている。
俺も頭が真っ白になった。
変態紳士が二人もいらねぇよ。
......はぁ。どうなってんだよ、この世界は。




