下着泥棒を追って(貴族宅突入です)
透明人間と思わしき人物を見つけた俺とラティは、急いでターゲットとされる貴族宅に向かい、正面扉の前に立ち止まった。
「いいか、俺の合図でドアを開けるからな。そしたら魔力探知で、あいつの居場所をすぐに教えてくれ」
「オッケー。いつでも行けるわ」
そして、俺は金色に輝く扉のノブに手を当て、息を整える。
「さん、にー、いち――行くぞ!!」
ガシャン――!!
俺の合図と同時に、ラティが勢いよく静まり返った貴族宅へと足を踏み入れた。
彼女はすぐさま魔力探知を発動させ、権田川の居場所を探る。
「この上から魔力の反応があるわ! 急いで二階に行きましょ!!」
俺はラティの言葉を聞くと、いつぞやの研究施設探索で使った懐中電灯もどきの魔道具をポケットから取り出し、階段を駆け上がった。
ちなみに、こんなにも貴族宅が静まり返っているのは、この家の住人にはあらかじめ別邸に移ってもらっているからだ。
しかもこの家の主は、権田川捜索にかなり協力的で、「捕まえるなら改造してもいい」とまで言ってくれた。
世の中の貴族はここまで心が広いのかと感心したが――今はそんな場合じゃない。早く権田川を追わねば......。
二階にたどり着き、数秒後。息を切らしながらラティが階段を駆け上がってきた。
「はぁ、はぁ......あんた、早すぎ.......。ええと.......右の部屋から魔力反応!」
「了解! 突入するぞ!」
俺は勢いよく扉を蹴り開け、懐中電灯もどきの光を室内に向けた。
部屋は大きなベッドが中央に据えられた寝室だった。家具の配置も乱れておらず、人の気配はまるでない。
「......おい、本当にここか?」
「間違いないわ。魔力反応がこの部屋の中で動いてる」
ラティの声に合わせて、俺はそっと一歩踏み出す。
足音がやけに響く。空気が重い。
そのとき――
ガタンッ!
本棚の上に置かれていた花瓶が突然倒れ、床に転がった。
誰も触れていないのに。
「っ、いたな......!」
俺は音のした方向へ視線を向けた。
けれど、そこには“何も”いない。
「やっぱり透明化のスキルね。位置がブレてるけど、まだこの部屋の中!」
ラティが詠唱を始め、淡い光が室内を包む。
床や壁の影が揺らぎ、微かな輪郭のようなものが浮かび上がった。
その輪郭の端に、かすかな人影――。
「見えた......!」
ラティが呟いた瞬間、空気がビリッと震える。
人影が動いた。
ベッドの下をすり抜け、窓の方へと駆け出す。
「逃がすかよっ!」
俺は懐中電灯の魔道具を思いきり投げつけた。
ガンッと鈍い音がして、何かに当たる感触が返ってくる。
「痛っ......!」
男の声。間違いない――人間の男だ。
その声を発した直後、寝室の扉へ走る足音が響き、扉が勢いよく開いた。
「あいつ、外に出る気ね」
ラティがぼそっと呟き、俺も短く応じた。
――これでいい。俺たちはあえて追わない。
張り込みをしている間、俺たちが“何も仕掛けてない”とでも思ったか?
そう。俺たちには、ある“秘策”があるのだ。




