高級建物探訪(自己肯定感下がり気味です)
その日の夕方、俺たちは貴族街の一角にある、霧ヶ峰先輩が手配してくれた屋敷へ向かっていた。
白いツヤのある石畳がまっすぐに伸び、通りの両側には手入れの行き届いた屋敷が並んでいる。
何度もこの街を訪れているが、相変わらず学ラン姿の俺たちは場違い感が際立っている。
「本当にこんな場所で盗みなんか起きているのか......?」
俺が呆れてつぶやくと、ラティが腕を組みながら苦笑する。
「目立たないようにするの、逆に大変そうよね。でも相手は透明になれる能力持ちだから、どんな場所でも盗みは出来るわよね」
そんな会話をしていると、目的地の屋敷に到着した。
霧ヶ峰先輩が借りてくれたのは、まるで貴族の別邸みたいな屋敷だった。
白壁に赤い屋根、玄関脇には金色のエンブレムが刻まれている。
中へ入ると、ふかふかの絨毯に高級家具、リビングには立派な暖炉が備わっていた。
「うおぉぉ!なんだこれ、ホテルか!?俺らの家より快適じゃん!」
「バカ、騒ぐな!ここは貴族街の高級住宅地なんだぞ!」
俺が止めるより早く、タカシはすでにソファに沈み込んでいた。
「あー、駄目だ。このソファに座ったら張り込みとかどうでも良くなってきた~」
「ったく......。油断するとすぐこれだ」
俺は呆れつつも、ついそのソファに手を置いてみた。
指先に伝わる感触は、まるでマシュマロ。ふわっと沈み込むような柔らかさだった。
そして、俺は自然とそのソファに腰を降ろしていた。
何だこのソファは......。俺たちの家のそれとは比べ物にならないほど上質な手触りだ。一度座ったら最後、立とうとする気力をソファに吸い取られているんじゃないかというレベルの座り心地だ。
「......やば、これは確かに落ちるな」
「だろ!?これは人間を駄目にするタイプの家具だぞおい!」
「いや、あんたはこの家具がなくても十分ダメ人間でしょ......」
ラティが額に手を当ててため息をつく。
そんな彼女はというと、壁に並ぶ絵画や装飾をじっと見ていた。
「というか、この装飾、全部手彫りね。魔導細工まで施してある。これはなかなか貴重なモノよ」
ラティの話によると、この家の装飾には“文化遺産級”の技術が施されているらしい。
「そんな家を“張り込み用”に借りるって、どういう感覚してんだろな......」
改めて霧ヶ峰先輩の財力に震える。
パンツ泥棒を追うためにここまで金を使う男、世界広しといえどもそうはいないだろう。
屋敷の中を一通り見て回ると、キッチンもバスルームも完備されていた。
「なんか、俺たちが住んでいる家が凄くチープに見えるな......」
「シンヤ、こんな家と比較しちゃだめよ......私たちの住んでいる家も良いところあるじゃない......?」
俺の呟きにラティがすかさずフォローを入れるが、その声は徐々に消え入りそうになっていき、その発言に自信の無さが伺えた。
俺とラティの自己肯定感がじわじわ下がっていく中、タカシは相変わらずマイペースだった。
そんなタカシがいつの間にかソファから離れ、食料貯蔵庫を開けていた。
「見ろよ!食材ぎっしり!最高かよ!」
俺のツッコミが空しく響く中、霧ヶ峰先輩は窓際に立ち、外を見下ろしていた。
「......俺とタカシがターゲットとする屋敷は正面にある建物だ。シンヤとラティたちも、もう一つ手配しておいた屋敷の方に移動してくれ。もうそろそろ犯行推定時刻になるからな」
「了解です」
俺は頷き、もう一つの屋敷の鍵を受け取り、ラティと共にその屋敷を後にした。
「ま、また別の豪邸ってことよね......?」
「さっき先輩に聞いたら、もう一つも同じくらいの屋敷って言われたから、超豪邸だな」
「ほんとに、あいつって何者なのよ......」
そんな会話をしながら、俺とラティは貴族街の静かな通りを歩いて、もう一つの屋敷へと向かった。
西の空には、沈みきる直前の夕日がわずかに残り、通り全体を橙色に染めている。
この静けさの中に、本当に“透明になれる下着泥棒”が現れるのだろうか。
そんなことを考えているうちに、気づけば目的の屋敷の前に立っていた。




